絵のジャンルに「細密画」というのがあります。
細かく緻密に描かれた絵のことで、本物と見間違うこともあります。
写真が登場する以前は絵画にそのような技術を求めることもあったのでしょうが、写真が登場して以降は絵画の世界も印象派のように多様化していきます。
それでも「細密画」はジャンルとして残りました。
加藤休ミさんのクレヨン画は「細密画」に近い、本物あるいは写真ではないかと思わせてくれるものがあります。しかも加藤さんの場合、私たちが慣れ親しんだクレヨンを使ってそこまで描くのですから、驚きです。
町の人たちのさまざまな「きょうのごはん」を描いたこの絵本の表紙で描かれたサンマの塩焼きの見事な絵はどうでしょう。
サンマの頭部の青さかげん、体の焼け具合、焦げた感じなど、匂いとか音さえ感じる絵です。
サンマだけではありません。
カレーもオムライス(特にケチャップは本物とそっくり)もコロッケも、もちろん加藤さんお得意のお寿司も、食卓に並んで、読む人の食欲を誘います。
この絵本を読んで、加藤さんの魅力はそのクレヨン画だけではないことに気づきます。
それは昭和感です。
この絵本に描かれた町のありようがとっても昭和なのです。
まず初めに出てくる夕方の商店街。今ではあまり見かけない風景です。(この最初のページをよく覚えておくといいですよ。このあと登場する人たちがみんな描かれています)
そこに描かれている建物とか人は「細密画」ではなく、加藤さん独自の絵の雰囲気をもっています。
それが昭和感です。