この絵本を読んで、まっさきに思ったことは、谷川俊太郎さんってなんて幸せな詩人だろうということでした。
どうしてかというと、この絵本は2021年4月に出版されているのですが、絵本で綴られた谷川さんの詩自体は1988年に刊行された『はだか』という詩集に収められた一篇の詩なのです。
それが、こうして絵本になる。谷川さん自身、この絵本の巻末の短いエッセイに「こんな不思議な絵本ができました」と書いているくらいです。
詩を、それもそんなに単純な内容ではない詩に絵をつけるのは、難しいだろうと思います。
少なくとも、この「うそ」という詩には物語(ストーリー)があるわけではないのですから。
「ぼくは/きっと/うそをつくだろう」、そんな書き出しの詩に、あなただったら、どんな絵を描きますか。
次の詩文を読まないとわからないよ。
では、「おかあさんは/うそをつくなと いうけど」と続きますが、さあて描けますか。
こういう絵本の読み聞かせって難しいだろうな。
単に朗読だったらできるかもしれませんが、絵とうまく調和できるだろうか。
そんな難しい詩に、1986年生まれの若いイラストレーターの中山信一さんがなんともぴったりの絵を描きこんでいます。
谷川さんの詩をじっくり読み込み、そのあといったん離れて自身の世界を思い描く、そしてまた谷川さんの詩に寄り添う。
そうして出来上がった絵本のように感じました。