名人・中川さんのストーリーはもちろんですが、なんと言っても作画・長谷川さんの殊勲大。長谷川さんでなければ、この作品の評価、運命は違ったものになっていたでしょう。
「下町の危難を救う変身幕下力士」なるキャッチコピーの通り、力士くずれのプロレスラーの暴虐から市民を守る(なんのこっちゃ)幕下力士のものがたりですが、みどころは東京ローカル、下町の風俗のコト細かな活写。ところが長谷川さんは、なんと大阪の方なんですね。
確かに大阪の庶民パワー、何というか猥雑さ(大阪のヒトゴメンナサイ)が東京下町に乗り込んだ、という印象も受けますが、この「無国籍さ加減」がまたいいんです。そして、こども向け絵本にストリップ小屋の看板や酔っぱらいの開く「小間物屋(何のことかお判りですね?)」、定食屋なんかを堂々と! 描いちゃったところに「やってくれた」と拍手喝采を贈るものなのであります! その他、格闘技ファンでなければ意味不明の小ネタ、殴り描きのようでいて、ひとりひとりの挙措動作にまで油断のならない画面構成まで、みどころ十分。そして、「なに、こんなのコドモにわかんないじゃん」とおっしゃるムキもあろうかと思いますが、そうじゃありません。読んであげるオトナがまず、おもしろがっちゃうことで、それがこどもにも伝わるんです。これ、ポイント。
長谷川義史さんは、今年になって立て続けに作品を発表なさっていますが、オールオリジナルではなくても、この作品が当分「代表作」として語られるのではないでしょうか。そして、「本年度日本絵本界の収穫No.1」としてオススメできる作品でもあるのであるのでアリマス。