【内容】
いつもひとりぼっちですごしている少女、コイシは、ある日山の泉で青く美しい龍にであう。龍とコイシは心を通わせ、毎日会っていた。コイシは海辺で拾ったさくら色の貝を龍にあげると、お返しに龍から一枚のうろこをもらう。龍のうろこは、村人に見つかり、コイシは強欲な村人に龍を呼び出すように脅され、龍の泉に連れて行かれるが…人間の愚かさと自然の儚さが感じられる作品。
作者:町田尚子
【感想】
日本の昔の風景を描かせたら世界一だと思う作者。今回も、素晴らしい背景、清々しい山の木々と澄んだ水、静寂さと神聖さを感じさせ、その場に行ってきたような感じを体験できます。
それに引き換え、人間の何ともあさましく、醜く矮小な心。強欲で意地悪で、愚かな村人の、汗臭い体臭が匂ってきそう。圧倒的に美しい自然の風景との対比が、実にあざやかで、ハッとさせられます。
昔も今も、またどこの国でも、人間社会の嫌な構図は変わらない。自然の良いものはどんどん浸食され、なくなっていく。嫌なものばかり残る。どんどん良いものが壊されていく怒りや悲しさを感じる、切ない作品です。
しかし、コイシも愚かだったのかと思います。コイシは、龍のうろこの取り扱いにもっと注意して、村人を龍に近づけないようにするべきだったのでしょう。村人に「龍などほんとにいるわけがない」とバカにされても、「そうねぇ〜」と適当にバカになって答えて、秘密を守り通すくらいでないと、神聖な場所は守れないのでしょう。
もっともそんなに機転がきいたら、「役に立たない」と村人に疎んじられることもなかったのかもしれませんが。
良いものは純真な人にしか見えないという、いい例なのだとも言えそうです。