「ちりんさん」「じょうさん」「らりろん」という舌足らずの呼び方に、持ち主の「あのこ」の幼さが透けて見えます。幼さゆえの不器用さ、元気の良さ、容赦のない愛し方に、動物のぬいぐるみたちは、我慢できない!と家出を決行します。
幼い子どもにとって、お気に入りのぬいぐるみは特別な友だち。柔らかく優しい肌触りに安心感を覚えて甘えられるだけでなく、時には、自分がお兄さんお姉さんぶって接することができます。その大事な友だちがいなくなったとなれば、子どもにとっては大事件!あのこの驚き、寂しさは半端ではありません。一方、家出したぬいぐるみたちも、実は、心細く後ろ髪を引かれる思いなのです。
小さな世界の短い間の出来事が描かれていますが、そこには、あのこと、ちりんさん、じょうさん、らりろんがそれぞれの思いを確認する、とても密度の濃い時間が流れていました。
幼い頃、大事なぬいぐるみが身近にあった人は多いでしょう。小さな子どもも、ちょっと大きくなった子どもも、子どもに寄り添う大人も、みんなが共感できる物語です。酒井駒子さんのステキな絵が、この物語とぴったりマッチして、とびっきりの物語絵本となっています。双方の間をウロチョロする皮肉屋のネズミがいい味をだしていました。ホントは彼、寂しがり屋なんですよね。