収束が見えないコロナ禍で、政治にしても経済にしても閉塞感がぬぐい切れない。
そんな中、絵本作家田島征三さんは元気だ。
1940年生まれというから、時の総理よりもまだ年上。それでも、これだけ元気。
もともとの画風が力強いものだが、今回のこの作品はその極地ともいえる。
一人の少年が川の浅瀬で見つけた大きな魚を捕まえる牧歌的な話で、田島さんの少年時代の思い出が色濃く反映されているといわれます。
牧歌的なのはそういう背景だけで、実際には魚を捕まえるという人間と魚との力のぶつかり合いが描かれています。
そこに水や大地、あるいは風や光といった自然のありようも重なり合います。
ようやくにして捕まえた魚を抱いて少年は大地に寝ころんで、しばしまどろみます。
その時見た夢は魚に抱かれている自分です。
捕まえられたのは魚だったのか、少年だったのか。
夢から覚めた少年は、魚が死にかけていることに気づきます。あわてて水のあるところまで駆けていきます。
魚は無事息を吹き返しますが、同時に少年の手からも逃げ出すことでもありました。
少年はこうしてせっかく捕まえた魚に逃げられてしまうのです。
少年は魚に逃げられましたが、命を実感したかもしれません。
自分の腕の中で暴れる強い命、胸の中で次第に弱っていく命、そして生き返る命。
この絵本はそんな強い命に溢れた作品です。