気持ちのよい新しい朝、いちょうの実たちは一斉に旅立ちます。
男の子はワクワク楽しそうで、女の子は不安で行きたくないと言っています。
私は…女の子と同じですね。きっとおっかさんと離れたくないって、泣いちゃうと思います…。
私が昔住んでいた団地の前に、いちょう並木がありました。
いちょうの葉が少しずつ、寂しそうに落ちていくのが好きで、地面に散らばったいちょうを触るのが好きでした。
…あれは、親の涙だったんですね。
いちょうの実の子どもたちはとっても仲が良く、思いやりのある優しい子ばかりです。
きっとおっかさんが、大切に大切に育ててきたんですね
そして子どもたちも、おっかさんの事を大切に大切に想っている…
子どもたちは新しい世界に胸を躍らせているけど、それだけではないという事をおっかさんは知っています。
私は希望に溢れる子どもたちより、おっかさんの気持ちの方が、気になって気になって仕方ありませんでした。
私もいつか親の涙を流すことができたら、どんなに幸せだろうか…。
おっかさんは強いですね。
涙は旅立ちの前の日に、全て置いてきました。
何も喋らないけど、別れの時でも凛とした強さを感じます。
だから子どもたちは、安心して旅立つことができるのですね。
いちょうの木はなんだか少し…私の母に似ているような気がしました。