![みどころ](/images/shoukai_midokoro.gif)
舞台は、東京オリンピックの年の青森市。主人公の岬は、小学6年生の女の子です。 岬にはスーパーを経営する両親と姉が二人います。大学2年生の長女・光希はシドニーオリンピックの年の生まれ、高校1年生の次女・冨美はアテネの年、そして岬は北京…と、全員がオリンピックイヤー生まれの3姉妹です。 小さい頃、自分の名前が気に入らない冨美から、自分を「あてねちゃん」と呼ぶように言われ、それ以来ずっと、岬は冨美のことをあてねちゃんと呼んでいます。岬にとって、あてねちゃんは年が近い姉ということもあり、頼もしくも気にかかる存在……。 対するあてねちゃんは、マイペースな自由人。しっかりものの長女と、皆に可愛がられる末っ子に挟まれ、時々ためこんだ鬱屈を爆発させるようなところがありました。 最近のあてねちゃんの様子からも、岬は何か危ういものを感じ取っていました。
夏休み、仙台の大学に通う光希が帰省し、半年ぶりの家族5人の食卓で、あてねちゃんが父親に食ってかかったせいで、楽しい雰囲気は台無しに。 そして、東京オリンピックが間近に迫った頃、岬の家族を揺るがす出来事が起きて……。
物語は、岬の視点で描かれます。 観察力が鋭く、常に周囲を見渡して気を遣っている岬は、はたから見ると控え目なとても「いい子」です。でも、実はいつも言いたいことを言えずに受け身でいることに、読者は読み進むうちにだんだん気づいていきます。 そんな岬は、夏の出来事と周りの人との交流を通して自分の殻を破るきっかけを得ます。 タイトルにある「魔女ラグ」は、岬が小さい頃に憧れていた、ショートカットでかっこいいアニメのキャラクター。髪をショートに切った岬に、あるものが“魔女ラグのもと”になって背中を押してくれるのです―――。
家族のこと、周囲の大人たち、幼馴染の要との関係、ずっと心にひっかかってきたこと、いろいろな要素が絡み合いますが、日常の描かれ方にリアリティがあって、なんだか身近な友達の話を聞いているよう。3姉妹それぞれが魅力的で、生き生きとしたドラマに引き込まれます。 背景に描かれる、オリンピックとねぶた祭の始まりを待つ街のそわそわした雰囲気も相まって、どんどんページをめくってしまうことでしょう。
子ども時代には気づかなかった、複雑な世界が広がり始める頃。思い通りにならないいろんなことに誰もがぶつかります。自己主張が苦手な主人公の性格に共感する読者もたくさんいるはず。 終盤、「負けるな、わたし」と繰り返して、世界に立ち向かう岬の姿に胸が熱くなります。 ずっと一歩ひいていた少女が、言いたいことをぶつける。小さなことかもしれませんが、まるで魔法少女の変身を目撃したみたいに、まぶしいのです。
肩に魔女ラグを乗せた岬の絵が大きく描かれた表紙もとてもかわいい! 岬の年頃の女の子、男の子にもぜひ手に取ってもらいたい、勇気がもらえる物語。清々しい余韻の残る一冊です。
(掛川晶子 絵本ナビ編集部)
![出版社からの紹介](/images/shoukai_shuppansha.gif)
2020年、東京オリンピックの夏が来た。 主人公・岬は、青森に住む6年生の女の子。三姉妹の末っ子で、長女・光希は、仙台の大学へ。次女・富美は高校1年生。三姉妹は全員、シドニー、アテネ、北京のオリンピックの年に生まれている。
岬は、次女の富美から「あてねちゃん」と呼ぶように指示され、以来そう呼んでいる。理由は、アテネオリンピックの年に生まれたから。岬は、頼れるけれど自由奔放に見えるあてねちゃんに危うさを感じていた……。
岬には、ずっと心にひっかかっていることがあった。それは、幼稚園の時に好きだったアニメ「魔女ラグノア」のキーホルダー事件。魔女ラグのキーホルダーを紗奈ちゃんに取られてしまい、あてねちゃんが取り返してくれたのだ。 でも、それは自分の性格からすると「取られた」わけではなく、うなずいてしまっただけなのではないか……。
自己主張が苦手な岬が、あてねちゃんや幼なじみ・要との関わりを通して成長していく、人情味あふれる物語。
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