
クリスマスというと、イエス・キリストが生まれた日。そこにはどんな物語があったのでしょうか。聖夜のできごとが、斬新な視点とツヴェルガーの美しい絵とともに描きだされていきます。
遠い昔。天使が身重のマリアが乗るための動物を選んでいました。最後に残ったのは、ライオン、一角獣、ロバ。そして、天使とのやりとりのあと最終的に選ばれたのは、わたし、ロバでした。
お腹の大きなマリアを背中に乗せ、ヨセフに引かれて、ロバは小さな町ベツレヘムへと向かいます。ようやく町へたどりつくと、人々でごった返していて宿屋はいっぱい。根気よく泊まるところを探し回っていたヨセフは、ようやく厩を借りることができました。
動物たちは知っていました。この夜なにかただならぬことが起きる、と。 やがて厩には光が満ち、細長いラッパを背負った美しい天使たちがどこからともなくやってきました。そう、お産が近づいているのです――。
ロバの視点で語られるこのお話は、イエスの降誕劇に、生き生きとした新鮮さと、温かみをふきこみます。たとえば自分たちの鋭い勘で気づいたことを動物同士で話し合ったり、自分たちのネットワークを通じて、いく人もの賢者たちがベツレヘムへ向かっていることもわかっています。 マリアが産気づき、人間たちが準備に奔走する一方で、ロバはずっとえさを食べつづけているのです。だってずっと歩き通しでお腹がすいていますからね。
静謐な空気と、人間の生活の雑多さ、そして動物視点ならではの意外な描写。それらが絶妙に重なり合って、独特の空気をかもしだしています。それがとても魅力的なのです。
冒頭の候補動物を選ぶときに、とても印象に残ったシーンがあります。ロバはこう言うのです。「はい、そのかたが世界の重荷を引き受けられるなら、わたしに乗られるのがもっともふさわしい」と。 たくさんの人に光と希望を与えながら、自らは茨の道を歩む人。幼い赤ん坊の運命を知っているからこそ、この素朴な言葉の持つ重みがじわじわと胸に迫ってきます。
造本もすばらしく、静かな夜に、じっくりと味わいたい一冊です。
(光森優子 編集者・ライター)
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遠い昔、天使が舞い降り、動物たちを選び始めました。 身重のマリアがベツレヘムへと旅をするので、マリアを乗せる動物を選ぶのです。 ノアの箱舟に乗せた生き物のリストから、天使は最適の動物を選び始めます。 最終選考まで残ったのは、ライオンと一角獣とロバのわたしでした。 新たな視点で新約聖書の世界を描いています。 絵は、国際アンデルセン賞受賞作家のリスベート・ツヴェルガー。 繊細で斬新なイラストで贈るクリスマスの物語です。
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