「ダーラナ ダーラナ すこしやすんでごらん」、ささやきかけてくるのは……? 毎月発売される新作絵本の中から、絵本ナビが自信をもっておすすめする「NEXTプラチナブック」。今回ご紹介するのは『ダーラナのひ』。どこか懐かしく、大切に味わいたくなるこの絵本。どんな内容なのでしょう。
NEXTプラチナブックとは…?
絵本ナビに寄せられたレビュー評価、レビュー数、販売実績など、独自のロジックにより算出された人気ランキングのうち、上位1000作品を「絵本ナビプラチナブック」として選出し、対象作品に「プラチナブックメダル」の目印をつけてご案内しています。
そして、毎月発売される新作絵本の中からも、注目作品を選びたい! そんな方におすすめするのが「NEXTプラチナブック」です。3か月に一度選書会議を行い、「次のプラチナブック」として編集長の磯崎が自信を持って推薦する作品を「NEXTプラチナブックメダル」の目印をつけてご案内します。
みどころ
長い道を、海を見ながらひとり歩いてきたダーラナ。押し寄せる波がささやく「ダーラナ ダーラナ なみうちぎわに きてごらん」という声に誘われて砂浜におりていきます。すると沈みそうな夕陽がささやくのです。「ダーラナ ダーラナ すこしやすんでごらん」と……。
夕陽はもう海に落ちそう。あたりが真っ暗闇になる寸前、ダーラナが集めた小枝に火がつきます。燃えあがったばかりのたよりない火、ゆらゆら揺れながらどんどん大きくなる火。そして、夜中、燃え尽きそうになる火……。
濃紺の闇の中、さまざまに表情を変えながら、赤・黄・白・ピンク色に燃え上がる焚き火は美しく、いつまでも眺めていたくなります。
ダーラナにささやきかけてくる波の色は、日の光に照らされて、まばゆいばかりの黄色。
砂浜におりていけば、今度は沈む夕日に染まって赤やピンクの色に。ひんやりした砂を踏みしめながら、ダーラナはここで火を起こして休むことを決めるのです。そして、やがてやってくる暗闇の中でゆらゆらと燃え上がる美しい火のシーンへとつながっていきます。
作者は、『ぼくとたいようのふね』(BL出版)など、幻想的な絵本を次々と世に送り出しているnakabanさん。どちらかと言うと大勢で読むよりも、ひとりかふたりで大切に味わいたくなる絵本作品です。
焚き火のそばでしばし寛ぎ、また次の場所へ旅をするダーラナ。記憶の底から、懐かしいぬくもりが蘇ってくるような気がするのはなぜでしょう。
今、物事が複雑すぎてちょっぴり疲れてしまっている、子どもや大人たちにおすすめ。夜は、ぜひ部屋を暗くして、絵本を読む手元だけを照らしてみてください。……まるで「ダーラナの火」が手元で燃えているようです。
いつか、どこかの…
夕日のひとかけが起こしてくれた、小さな火。それをなんとか大切に守りながら、息を吹き込み、大きな焚き火へと育てていく。この一連の作業は、どうしてこんなにも魅力的なのでしょう。私たちの心をあっという間に惹きつけてしまい、気がつけば絵本の中で燃え上がる火を無心で眺めているのです。そして、自分の中にも生まれてくる何かを思い出そうとする気持ち。いつか、どこかの……。そんな魔法のような時間こそ、大切にしていきたいと思うのです。
この書籍を作った人
1974年11月、広島県生。絵画を中心に、挿絵やアニメーションなど幅広く活動。東京都在住。主な絵本作品に『チョロコロトロりんごのくにへ 』『ネズネズのおえかき』(学習研究社)など。
磯崎 園子(いそざき そのこ)
絵本情報サイト「絵本ナビ」編集長として、絵本ナビコンテンツページの企画制作・インタビューなどを行っている。大手書店の絵本担当という前職の経験と、自身の子育て経験を活かし、絵本ナビのサイト内だけではなく新聞・雑誌・テレビ・インターネット等の各種メディアで「子育て」「絵本」をキーワードとした情報を発信している。著書に『ママの心に寄りそう絵本たち』(自由国民社)がある。