「た」という文字からイメージするのは……? 毎月発売される新作絵本の中から、絵本ナビが自信をもっておすすめする「NEXTプラチナブック」。今回ご紹介するのは、日本語の豊かなニュアンスを堪能できる絵本『た』。どんな内容なのでしょう。
NEXTプラチナブックとは…?
絵本ナビに寄せられたレビュー評価、レビュー数、販売実績など、独自のロジックにより算出された人気ランキングのうち、上位1000作品を「絵本ナビプラチナブック」として選出し、対象作品に「プラチナブックメダル」の目印をつけてご案内しています。
そして、毎月発売される新作絵本の中からも、注目作品を選びたい! そんな方におすすめするのが「NEXTプラチナブック」です。3か月に一度選書会議を行い、「次のプラチナブック」として編集長の磯崎が自信を持って推薦する作品を「NEXTプラチナブックメダル」の目印をつけてご案内します。
みどころ
この絵本のタイトルは画面いっぱいに力強く書かれたひらがらの一文字「た」。いったいどういうことなんだろう、文字の絵本なのかな……とページを開いてみれば、最初からそのダイナミックな絵の放つパワーに圧倒されてしまうのです。
たがやす、たねまく、たちまち!! めがでて、たくましくそだつ。
空には、ぎらぎらと光を放つたいよう。
稲はたわわに実り、たいせつに刈り取り、たくわえる。
ここはどうやら、私たちに共通する豊かな原風景。稲を育て、収穫し、そうやって農耕によって家族を養い、命をつないできた日本人の姿が「た」をキーワードにして描かれています。
たいへんな困難がやってくれば、人々はたたかい、たすけあい、たよりあう。そして、たたえあい、たのしむのです。
「た」という言葉のニュアンスからイメージがつながっていくのは、古来連綿と続く人々の営みとその精神。そこには私たちが忘れてはいけない生きることの「原点」が隠されているのでしょうか。最後のページでそれはおいしそうに握り飯をたべる子どもの姿を見ながら、なぜか心の底が沸きたってくるのです。
一貫して、自らの身体が感じる“命の芸術”に正直に絵本を制作してきた田島征三さんが描きだす「た」。激しく踊るような絵の中に混ざりながらも、しっかりと静かにその形の美しさを見せてくれる文字。その不思議な対比が、さらに想像力をふくらませてくれるようです。
何度も声に出してみると…
「たべる」「たのしむ」「たすけあう」。「た」ではじまる言葉は、きっともっといくらでも考えつくことでしょう。でも、まずはこの絵本で選び抜かれた「た」と、その並び順を素直にそのまま声に出し、その感触を何度も受け取ってみるのがおすすめです。「た」から始まる言葉の持つエネルギー、子どもたちはどんな風に感じるのでしょうね。絵のイメージと混ざりあって、それぞれ独自の記憶となって残っていくのかもしれません。
この書籍を作った人
1940年、大阪府生まれ。幼少期を高知県で過ごす。多摩美術大学図案科卒業。大学在学中に手刷り絵本『しばてん』(1971年に改作し、偕成社より出版)を制作。1969年より東京都西多摩郡日の出町で農耕生活を営みながら絵画や版画、絵本を制作。1988年、伊豆半島に移住する。絵本に『とべバッタ』『ふきまんぶく』(偕成社)、『ガオ』『おじぞうさん』(福音館書店)、『いろいろあっても あるきつづける』(光村教育図書)など多数。エッセイ集に『絵の中のぼくの村』(くもん出版)などがある。国内外での受賞多数。日本を代表する絵本作家として精力的な活動をつづけている。
磯崎 園子(いそざき そのこ)
絵本情報サイト「絵本ナビ」編集長として、絵本ナビコンテンツページの企画制作・インタビューなどを行っている。大手書店の絵本担当という前職の経験と、自身の子育て経験を活かし、絵本ナビのサイト内だけではなく新聞・雑誌・テレビ・インターネット等の各種メディアで「子育て」「絵本」をキーワードとした情報を発信している。著書に『ママの心に寄りそう絵本たち』(自由国民社)がある。