第1回の作品募集がスタートした『読者と選ぶ あたらしい絵本大賞』。この連載では、特別審査員の方へのインタビューをご紹介していきます。様々なジャンルでご活躍されている皆様が、それぞれの立場から考える「あたらしい絵本」とは? 前編と後編に分け、絵本への思いや応募作品への期待など、たっぷりお話いただきます。
今回ご登場いただくのは、家族の何気ない日常を漫画で描き、子育て世代を中心にSNS総フォロワー数約140万人の人気クリエイターのつむぱぱさん。その多彩な活動や創作のアイデアの源はどこにあるのでしょう。また気になる絵本との出会いは……?
つむぱぱ(イラストレーター)
娘「つむぎ」と息子「なお」、そしてママの4人家族。ほっこりとしたイラストで、家族の何気ない日常を漫画で描き、子育て世代を中心にSNS総フォロワー数約140万人の人気クリエイター。コミックエッセイ『きみはぱぱがすき?』や、絵本『トミカとトム ぼくのたんじょうび』などの出版、百貨店での展覧会、さまざまなブランドとのコラボなど多彩な活動を展開。
――「あたらしい絵本大賞」特別審査員をお引き受けいただき、ありがとうございます。絵本の審査員は意外なオファーだと思われたかもしれませんが、幅広い活動をされているつむぱぱさんの知見をぜひお借りできればと思っております!
つむぱぱさんは、InstagramやTikTokで子育て絵日記を投稿されています。ほかにイベントを開催したり、コラボ商品を展開していたりと、いろいろな方向で活躍していらっしゃいますよね。改めて、つむぱぱさんのお仕事についてお話いただけますでしょうか。
現在はいろいろと仕事の幅が広がっていて、一言では説明が難しいのですが、「家族の幸せな時間を1秒でも増やす」ためにできることを、ジャンルを超えてやっていきたいと思っています。そのひとつがSNSの投稿であり、漫画やアニメの制作であり、絵本作りであり、という状態です。
また、来年に向けて大きなフェスも企画しています。コンセプトは「ファミリーで過ごせるフェス」。現状ではまだ、ファミリーでフェスに行くという認識が薄いことや、子どもにとってなかなか過ごしやすいとは言えない環境のフェスも多い中で、親子で手軽に行って楽しめる「日本最大のフェス」を作ろうと、企画しているところです。宣言してしまえば、後に引けなくなりますしね(笑)。
そうやって活動していく中で新しいサービスやブランドが生み出されていく……という感じかと思います。
――ひとつのジャンルにこだわるというよりも、「家族が楽しめること」というテーマが、仕事の発想の中心になっているんですね! そんな活動のきっかけになったのは、なんだったのでしょうか。
原点は「つむぱぱ(@tsumugitopan)」というアカウントで、漫画を描いていたことと言い切れます。結婚前は、家族や家庭に対する関心は薄いほうだったかもしれません。
でも、いざ自分の子どもとの生活が始まるとすごくかわいくて。そこで、家族の日々の言動をなにか書き留めたい、残しておきたいなと思って、2017年にInstagramを始めたんですね。そのうちにフォロワー数がどんどん増えていって、たくさんの方からコメントやDMのメッセージをいただくことが多くなって。その中で、子育ての困りごとを抱えている人が多いんだなと感じたんです。
家族のことは、その家族でしかわからないことが多いですよね。友だちの家族と遊んでいても、あくまで自分たちと遊んでいる時間しか共有できていないので、実状はなかなか知ることができません。少なくとも僕のところに寄せられた声は、ママががんばってワンオペ育児をしているご家庭が多くて。実は僕の家もそういうパターンでした。みんな、辛い思いをしているのかなと感じたのが「育児中、ちょっと心が休まる時間をくれてありがとうございます」という感謝の言葉からだったんですね。
だから、もっとパパとママが幸せであってもいいなって。子育てを楽しんだほうがいいということを、もと広めたいという気持ちが、少しずつ芽生えたのではと思います。
――私自身も、子育てがこんなに大変だなんてだれも教えてくれなくて、当時は辛かったという気持ちが今でも残っています。そういう大変な時期につむぱぱさんの漫画があったらと、今、育児中の方がうらやましいという気持ちがちょっぴりあります。もちろん、子育て真っ最中の方は、まさに「今」が大変だと思います。そんな時に励みになるものの形がどんどん変わっていっているのかな……と、つむぱぱさんのお話を聞いて思いました。
――“つむぱぱ”が始まったのは、一歳を迎えた“つむぎ”ちゃんの誕生日プレゼントとして描いた、1冊の絵本がきっかけだそうですね。
そうです。娘の一歳の誕生日に、なにか記念に残るようなものを手作りしたいなと思って。子どもはあっという間に大きくなってしまうので、娘の成長を絵と文で記録するなら「絵本」だなと思いついたんです。
――実際に子育てをしたり仕事をしたりする中で、つむぱぱさんにとって「絵本」はどんな存在ですか?
僕にとって絵本は、決しておおげさなものではなく、その人の価値観を作るというか、原体験になっていくようなものなのかなと思っていて。絵本を読む時期は、幼稚園やもっと年齢が低い時期だと思いますが、そのころに読んだ絵本の記憶が、自分でも驚くほど強く印象に残っています。
今でも覚えている絵本は、実家の近くにあった歯医者さんで読んだ、『絵本 地獄』(風濤社)です。僕は虫歯が多くて頻繁に歯医者さんに通っていて、歯医者さんの待合室で絵本を読むのが習慣だったんです。そこで出会ったのが、めちゃくちゃ怖い地獄の絵本で、怖いもの見たさに読んでいました。
思い返せば、その絵本で見た地獄の世界が、僕の地獄観みたいなものを作っていて。きっと僕だけでなく、たくさんの子どもたちにとっても、絵本が、現実とは違う世界の体験の始まりだったのではないかと想像すると、「絵本」が人生に与える影響力はとても大きくて重要ではないかと思います。
――絵本の記憶は、断片的になっても残っていることが多いですよね。
そうなんです。映像として残る感覚があります。絵本はある程度抽象化されたイメージが絵になっているので、人間の記憶に残りやすいのかなと思います。
――お子さんのために読んだ絵本の中で、印象に残っている作品はありますか?
そうですねえ……いろいろありますが、子どもは「ノラネコぐんだん」シリーズが大好きでしたね。
出版社からの内容紹介
アイスクリームパーラーをのぞくノラネコぐんだん。空っぽの缶を発見して…。シリーズ最高傑作との呼び声も高い第6弾。
――InstagramとTikTokにアップされている、つむぎちゃんとナオくんが『ノラネコぐんだん アイスのくに』を読む動画がかわいいですよね。つむぎちゃんが先に読んで、「真似して」と言われたナオくんがお姉ちゃんの読んだ通りに読むけれど、まだ小さいから「です」が「でしゅ」になったり、しばらくすると真似するのをやめちゃったりするというやり取りを見ているだけで飽きなくて、何度も観てしまいます。本当に絵本は読む人のものだなと感じますね。絵本を読むというのは、ストーリーを吸収するだけではないんですよね。子どもたちの姿を通して大人も楽しめる。そんな日々が、つむぱぱ家では繰り広げられているんですね。
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そうですね。何度も繰り返し読むとストーリーもすっかり覚えてしまうので、文字を読まずに僕がアドリブでストーリーを作って読むこともあります。そのとき、「絵」にそって話のつじつまだけは合うようにするというのが、マイルール。改めて、絵本はすごくクリエイティブなツールだと思いますよね!
――だからお子さんたちも、自分なりの捉え方でお話を楽しんでいるんですね。普段から、そんな風に絵本を自由に楽しんでいる姿というのは、大人の影響もあるのかもしれません。ありがとうございました。
後編では『読者と選ぶ あたらしい絵本大賞』について、絵本づくりについて、さらに深堀りしてお伺いしています。こちらお楽しみに!
※つむぱぱさんインタビュー記事(後編)は、2025年1月21日頃の公開を予定しています!
インタビュー: 磯崎園子(絵本ナビ編集長)
文: 中村美奈子