テレビで話題!いま、かんがえてみませんか?
- ためしよみ
「自分がしらすだったらって、かんがえたことある?」毎月発売される新作絵本の中から、絵本ナビが自信をもっておすすめする「NEXTプラチナブック」。今回ご紹介する絵本は『しらすどん』です。どこにでもある日常の光景が、ある一言をもって急展開。こんな世界、味わったことない!? どんな内容なのでしょう。
NEXTプラチナブックとは…?
絵本ナビに寄せられたレビュー評価、レビュー数、販売実績など、独自のロジックにより算出された人気ランキングのうち、上位1000作品を「絵本ナビプラチナブック」として選出し、対象作品に「プラチナブックメダル」の目印をつけてご案内しています。
そして、毎月発売される新作絵本の中からも、注目作品を選びたい! そんな方におすすめするのが「NEXTプラチナブック」です。3か月に一度選書会議を行い、「次のプラチナブック」として編集長の磯崎が自信を持って推薦する作品を「NEXTプラチナブックメダル」の目印をつけてご案内します。
みどころ
「そろそろ ごはんよ」
庭で遊んでいたりょうくん、いやいや食卓につきます。まだまだ遊んでいたいのに。今日のご飯はしらすどん。あっという間に食べて、ごちそうさま。ところが席を立つりょうくんに、どこかから呼び止める声がします。
「まだ あるよ」
声の主はどんぶり。見ると、どんぶりの中には食べ残された小さなしらすが一匹。どんぶりは続けて言うのです。
「自分がしらすだったらって、かんがえたことある?」
その瞬間、りょうくんはみるみる小さくなって、どんぶりに吸い込まれ……!?
どこにでもある日常の光景。ここから何かが起こるというのでしょうか。
「ごちそうさま」
食べ終わったりょうくんを呼び止めたのは、どんぶり。まだ残っていると言う。
「だいたい たべたんだから いいじゃない」
そう答えた次の瞬間……
りょうくんはみるみる小さくなって、どんぶりに吸い込まれた!
しらすの代わりにどんぶりに残された小さなりょうくんは、生ごみとして捨てられて、そこから信じられない光景を次々に目の当たりに。なにしろ、次に目を覚ました時には、りょうくんは海の中で必死になって泳いでいるのです。周りの兄弟たちは、大きな魚に次々に食べられていく中、りょうくんは運良く生き残るのですが。
その驚きの展開に圧倒され声も出ないほど。なんという絵本でしょう。
でも特筆すべきはその描写力。見たことも体験したこともないはずのしらすの生涯なのに、読み終わってみれば、いつの間にかりょうくんと同じような感覚を味わってしまうのです。この作品が絵本デビュー作となる最勝寺朋子さんは、実際にシラス漁を体験されたり海にもぐったり、絵本のための取材を丁寧に重ねていったのだそう。
怖い? いや、美しい? それとも……。感覚的に「命を感じる」ことができる、存在感の大きな絵本の登場です。
あり得ない、そう思っていても
「ぎょっ」とするようなインパクトや怖さがありながら、いつの間にか魅了されてしまう。絶対にあり得ない、そう思っていても納得させられてしまう。作者の執拗なこだわりと思いの強さが、時として見たこともないエンターテインメント に昇華させてしまうのでしょうか。一度読み始めたら、目が離せません。おそらく子どもたちの記憶の奥底にしっかりと残っていくのでしょうね。とても面白いです。
この書籍を作った人
1989年神奈川県生まれ。幼少期より絵本に親しみ、次第に作家を志す。鳥取大学地域学部地域環境学科を卒業後、タウン紙の記者に。自然観察会を取材中、昆虫を調理して子どもたちにふるまっていた地域のおじさん=舘野鴻氏(絵本作家)と出会い、2015年より師事する。川や海でのごみ拾いを通して海洋プラスチック問題を考える市民グループのリーダーとしても活動中。
磯崎 園子(いそざき そのこ)
絵本情報サイト「絵本ナビ」編集長として、絵本ナビコンテンツページの企画制作・インタビューなどを行っている。大手書店の絵本担当という前職の経験と、自身の子育て経験を活かし、絵本ナビのサイト内だけではなく新聞・雑誌・テレビ・インターネット等の各種メディアで「子育て」「絵本」をキーワードとした情報を発信している。著書に『ママの心に寄りそう絵本たち』(自由国民社)がある。