●生きていくために大事な５つの力
───2冊の絵本には、子どもたちへのメッセージが詰まっていますね。
このあいだ、地元の小学校に講演会で呼ばれて行って、保護者向けに「ぼくがなぜ絵本作家になったか」というお話をしました。そのときに最後の質疑応答でなにかありますかと言ったときに、「うちの子どもが、ゲームしかしません。どうしたらいいですか」と（笑）。
いつも講演会のいちばん最後に話すのが、子どもがこれからの時代を生きていくのに大事な力が５つありますと。１つは「そうぞうりょく」で、想像力と創造力です。あと３つは選択力、決断力、行動力ですと。ゲームでは、選択力や決断力は役立つかもしれませんが、ゼロから「そうぞう（想像・創造）」する力はなかなか育たないと思いますと。だから、親として何か与えてあげられるようなことを、「こんなこともやってみたらどう？」と、子どもが少しでも他に興味を示すようなことを、一緒に探してあげたらどうでしょうか、と。
もうひとつ、「電車にしか興味がないのですが、どうしたらいいでしょうか」という質問もありました。子どもの興味は変わっていく場合もあるし、突き詰めていけば他のことにつながっていくこともあるから、親御さんは子どもがちょっとでも興味を示したものをバックアップしてあげてください！ と伝えました。
くみあわせて、あたらしいものや、すきなものをつくるゲームをしよう。『すきなことのみつけかた』より
ね、かんがえるのって、たのしいと思わない？『すきなことのみつけかた』より
もともとぼくは本が好きだったわけではありません。親が「読みなさい」という本はおもしろくなくて、昆虫や蝶の図鑑は見てましたけど、あまり本は読んでいませんでした。
でも小学校高学年のとき、ぼくが唯一得意な図画工作に力をいれてくれた担任の先生の、「本を読んだら１マスぬる表」が本のおもしろさを知るきっかけになりました。ぼくはこの先生に気に入られたくて、図画工作の授業をがんばるだけじゃなく、表を埋めるために図書室で本を読むようになりました。
夢中になったのがSFやミステリーです。「創作子どもSF全集」（国土社）全20巻の中の、『孤島ひとりぼっち』（矢野徹 著、梶 鮎太 絵）とか『おかしの男』（杉山径一 著、小林与志 絵）とかおもしろかったですよ。エドガー・アラン・ポーの推理小説『モルグ街の殺人事件』『黒猫』も読みました。
夢中になるうちに「１マスぬる表」なんかどうでもよくなって、楽しい本もあるんだとわかって、家から2駅くらいのところにある市立図書館まで、自転車で20分かけてよく通うようになりました。おかげで、それまで知らなかった楽しさを味わえるようになりました。
さっきゲームの話がありましたけど、ぼくも、小学校の頃はずーーっとテレビばっかり見てたんですよ。ありとあらゆるドラマ、音楽番組、アニメ番組を見倒したことが、全部今のぼくの中にあって、それを今、作品として外に出してるんやなと思います。
UFOやネッシー、妖怪も大好きだったし、テレビ番組の「怪奇特集！！ あなたの知らない世界」の怖い再現映像なんかを、布団かぶって布団の中から見てるくらい好きでめちゃくちゃよく見てました（笑）。
───そういうものが「怪談レストラン」シリーズの挿し絵や「ネコダルマン」（＊）などのキャラクターにつながっているんですね（笑）。
結局、好きだったことは、ムダにならないということですよね。
何一つ、ムダにはならない！ だからぼくは、デザイナー、兼、絵を描く人になれて本当によかったなと思いますし、「いちばん、ムダのない仕事につけたんちゃうかな」と思うくらいですね。
（＊ネコダルマン…招き猫とダルマを合体させたおめでたいキャラクター。『ネコダルマンファンタスティックワールド』（ゆめいろ出版）や、たかいさんの初絵本『ネコダルマンの宝島』（青心社）に登場。）
むしのことをしらべて、きろくして、もっとむしのことがだいすきになったよ！『すきなことのみつけかた』より
●「すきなこと」や、人との出会いは、行動することでつながっていく
───たかいさんが絵を描きつづけられたのは、なぜだったんでしょうか。
やっぱり好きだったからだし、いろんな人との出会いがあると思います。
大学生のとき、永田萠さんのサイン会場へ、たった一枚だけ自分が描いた絵をもって押しかけて「ぼく、こんなものを描いているんです。見てください」と差し出したことがあるんです。永田萠さんの描く美しいグラデーションとか妖精とか、カラーインクで描かれたファンタスティックな世界観が大好きだったんですよね。それを、永田さんは「一晩あずからせてください。また明日ここに来られますか？」とおっしゃって持って帰られ、次の日、本当に感想を聞かせてくださっただけでなく、今自分がどんなことに興味があるのか、何をやろうとしているのかとか、いろんなお話をしてくださいました。その出来事はぼくにとってものすごく大きくて、今でも原点の１つになっています。
ぼくは立体作品もたくさん作っているんですが、一度スランプに陥って作品を作れなくなったこともありました。グループ展がもう来月にせまっているのに、１か月間何も作れない。
どうしようと思っているときに、福井恵子さんというフラッグ・デザイナーを名乗る作家さんの立体作品に出会って、プロフィールに書いてあった、旗をデザインする意味やその考え方に感動したんですね。「この人の原点には何があるんやろ。ぼくはどうやろ？ そうや、ぼくが好きだったのはウルトラマンの怪獣やった」と原点を思い出し、そっからぶわーっと材料を買いこんで作り始めて、２日で畳二畳分くらい、ダンボールで怪獣の立体作品を作り上げ、グループ展に間に合いました。
こちらはスタイルフォームという素材を削って加工し、粘土をつけて着色した立体作品
かわいい怪獣やUMA（未確認動物）がたくさん！
描いた絵をもとにイメージをふくらませて立体作品に
立ち直るきっかけを与えてくれた福井さんに会いたいと思って、会いに行き、そこからずっとおつきあいが続いています。大学でデザインを教えることになり、悩んでいたときも、福井さんのダンナさんにたまたま言われた言葉が転機になりました。「たかいくん、あんた、自分のやってること好きやろ？」「自分がやってる仕事が本当に楽しい、ってことだけを（子どもには）言ってあげたらいいんや」と。目からウロコでしたね。肩の荷がおりたというか、そうだ、悩んでいる間があったら1冊でも多く絵本を作ろうと思いました。
そうやって言葉をかけてくれた人や、仕事を一緒にさせてもらっている人たちはもちろん、大学生のときぼくの絵をみてくれた永田萠さん、大学に入るために絵の勉強を見てくれた教室の先生、読書の楽しさや図画工作の楽しさを教えてくれた小学校の先生……。遡れば、数え切れないくらいの人との出会いがあります。
でもその出会いが、何によって生まれたかっていうと「自分はこんな人間です」「自分はこんなもんを作ってます」と伝えたい気持ちがあったからだと思うんです。だから、作品を作ります。個展をやります、と。
20代は早く有名になりたかったんですよね。30代で自分はその器じゃないんだと気づくんです（笑）。目の前の仕事をきちんとしていかないといけないんだ、とわかる。積み上げてきたからこそ、ここまで来られたんだなと今は思います。
子どもに「なんでべんきょうするの？」と聞かれたら、「将来、自分の好きなことをするためや」と思います。「べんきょうは今の自分のためじゃなくて、将来の自分のためにするんや」と伝えてあげたいです。
───「友だちってどうやってつくるの？」「すきなこと、ないよ。どうやってみつけるの？」と子どもに聞かれたら何と答えたらいいのか、なかなかすぐには答えられない質問に『ともだちのつくりかた』『すきなことのみつけかた』は、答えを楽しく探すための、実践的な方法を教えてくれる気がします。
たかいさん、きょうはありがとうございました！
インタビュー・文： 大和田佳世（絵本ナビ ライター）
撮影： 所 靖子
※期間内【２０１８年２月２２日から２０１８年３月２１日まで】にご回答いただいた絵本ナビメンバーの方全員に、
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