2011.03.30
第4回 「祖父江慎さん スペシャルインタビュー の巻」
『ぼくと おおはしくん』のデザインをしてくださったのは、斬新なブックデザインで知られる、祖父江慎さん(プロフィールは第1回に掲載しています)。くせさんとは、京都の絵本塾、インターナショナル・アカデミーで師弟関係だったことから、デビュー作のデザインを依頼するという夢のようなプランが実現しました。
第4回は、その祖父江さんの登場です。
そうそう、前回入稿したカバーとオビは、こんなふうに仕上がりました!
ふたりの出会い
(祖)(表紙、カバーの色校を見ながら)いいですねー、よくできましたねー。
(チ)くせさんとは、京都の絵本塾が出会いの場でしたね。くせさんには、当時から注目されていたのでしょうか?
(祖)そうです。生徒のなかでもかなり独特な絵だったんですよ。誰かの影響を受けるとか、時代のはやりを気にしたりせず、わが道を行っていたんですよ。ノリで描いたりしないで丁寧に、純粋に見た世界をそのまま描いている。特徴がなさそうに見えて、実は一番独特だったんです。
(チ)「講談社ミステリーランド」の挿画を、くせさんに依頼されていますね。
(祖)この本は、あまり知られていない新鮮なイラストレータのかたにやってもらいたかったの。これから伸びるにちがいなく、丁寧に描ける方。・・・で、思い浮かんだのがくせさんだったんです。
(チ)祖父江さんの感想はいかがでしたか?
(祖)細かい風景や登場人物の多いシーンを丁寧にちゃんと描いていただきました。枚数が多かったので、たいへんだったと思います。でも、おかげで、いい本になりました。
頑張った『ぼくと おおはしくん』
(チ)『ぼくと おおはしくん』、いよいよ校了ですね。
(祖)やりとりさせていただくなかでも、くせさんの世界観がどんどん明解になってきしたね。くせさんの絵を見てまず感じることって、丁寧な風景の中の、風や空気でしょ。川の音や土の匂いも感じられます。技術はあるのにそこにたよってないの。そこがいい! デビュー作だから、線がちょっと緊張してるかもしれませんが(笑)。
(チ)風景が丁寧に描けるというのは強みですね。
(祖)そう! 風景の描ける人がこのごろ少なくなってきたんです。なかなかいないんですよ。いろいろな情景を描けることって、絵本にとっても大事なことだと思うんです。文字で語らなくても、絵だけでも伝えることができれば、それを手にとる読者のイメージも広がっていきますしね。
(チ)デザインのポイントについてお聞かせください。
(祖)“見る”ということを大事に作りました。なので、本文の文字はすべてスミのせ(黒い文字)! まず、絵を見て感じて、それから文字を読んでもらいたい。なので、文字はひっこんでもらってます。白ワクとったり、白フチつけたりしないようにしました。
(チ)苦労されたところはありましたか?
(祖)タイトルの書体かな。・・・ちょっと悩みました。かめに名前を書く「おおはしくん」、絵の上手い「ぼく」。"かく"っていうこともお話の軸になってるから、最初は「ぼく」が書いた文字風にしようかとも思ったんです。でも、大人が作った子どもの字って、ウソっぽいし。・・・なので、それはやめて、やっぱり文字にはひっこんでもらうことにして、くせさんの絵にまず目がいくように書体選びに切り替えました。古いか新しいか、よくわかんないようなちょっと映画っぽい書体に。
(チ)見返しはふつう1色で印刷して、絵を入れないことが多いですが、くせさんは前見返し、後ろ見返しと、別々の絵を描きました。
(祖)なつかしい感じのイラストですよね。原画はカラーだったんですが、本文との棲み分けの意図もあって、絵本らしい2色で製版してもらったんですよ。紙も替えてね。
(チ)製版といえば、原画の色を印刷で再現するのは難しい場合もありますね。
(祖)今回の作品は、たくさんの緑色が使われていて、それが絵の魅力になっています。ただ、緑の色相の差の表現って、今のスキャナやインキではなかなか難しいんですよ。だから、製版法や、インクの種類を試してもらいました。仕上がりは、かなりうまくいってます!
(チ)私もそう思います! くせさんと3人で打ち合わせができたのは、たった1回でしたが、いいチームワークでしたよね。ここでくせさんへ、はなむけのことばを贈ってください。
(祖)流行りイラストレータのタッチを真似をしているイラストレータが多いなか、くせさんは、イラストの観察以上に対象物の観察をしている方だと思うんです。そのため、癖のない絵なんだけど、多くのイラストレータ以上に独特で、誰も真似できない世界を描けると思っています。"絵に向かう"気持ちがきっと素直で純粋なんですね。くせさんが関心を持ったことにまっすぐに絵本を作っていってほしいと思います。「ふつうはどうなんだろう?」なんていう躊躇は、あまり気にしないで、自分の感動に素直になって、今までの絵本では描かれてない世界を開拓していってほしいです。これから作られる絵本も楽しみにしています。デビュー、おめでとう!
(チ)今日は、ほんとうにありがとうございました。くせさん、私からもおめでとう!