おかあさんは「うそ」をつくなと言うけど。 それはきっと、うそが苦しいと知っているから。
だけど、ぼくはきっとうそをつく。 うそをつく気持ちは「ほんとう」なんだ。
1988年に発表された谷川俊太郎さんの詩「うそ」に、イラストレーター中山信一さんが絵を描き、出来上がったのがこの絵本。読んだあと、しばらく茫然としてしまうのは、自分の頭の中が、絵本の中の男の子みたいにうそとほんとで混濁し、灰色の景色になってしまうから。
うそって、ついてはいけないものなんだろうか。うそをついたら、あやまらなくてはいけないのだろうか。だけど、ごまかすようなうそは嫌いだし、人を傷つけるのも良くない。大人になってからも思い出しては、後悔するようなうそをついたこともある。じゃあ、ほんとってなんだろう。私はいつもほんとのことを言ってるんだろうか……。
そうやって、割り切れない心と一緒に生きていかなければならないのが、大人の本当の姿。犬のさんぽをしながら、地面で動き回るアリ達を眺めながら、水たまりにうつる自分の姿をのぞきながら、男の子も一歩ずつ大人へと歩き出しているのかもしれません。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
「うそはくるしい」はずなのに、平気でうそをつく人がいる。大きな声でうそをつき、しらを切り通す人もいる。うそをくり返したら、ほんとうになるのだろうか。この世はほんとのことより、うそであふれている。うそをつかない人なんて、この世にはいないだろう。でも、どうして人はうそをつくのだろうか。ついついてしまったうそ。ごまかすためのうそ。自分を守るためのうそ。相手の幸せを願ってつくうそ。そもそも[ついていいうそ]と[ついてはいけないうそ]、[いいうそ]と[悪いうそ]ってあるのだろうか。あるとすれば、その違いはなんだろう。いい・悪い、軽い・重いの基準で測れるものだろうか。この絵本は、詩人・谷川俊太郎さんが1988年に発表した詩「うそ」に、イラストレーター・中山信一さんが絵を描き、構成した一冊。ある男の子がうそについていろいろと思い、考える。心の奥深いところまで届く、時おり読み返したくなる宝物のような一冊。
この絵本を読んで、まっさきに思ったことは、谷川俊太郎さんってなんて幸せな詩人だろうということでした。
どうしてかというと、この絵本は2021年4月に出版されているのですが、絵本で綴られた谷川さんの詩自体は1988年に刊行された『はだか』という詩集に収められた一篇の詩なのです。
それが、こうして絵本になる。谷川さん自身、この絵本の巻末の短いエッセイに「こんな不思議な絵本ができました」と書いているくらいです。
詩を、それもそんなに単純な内容ではない詩に絵をつけるのは、難しいだろうと思います。
少なくとも、この「うそ」という詩には物語(ストーリー)があるわけではないのですから。
「ぼくは/きっと/うそをつくだろう」、そんな書き出しの詩に、あなただったら、どんな絵を描きますか。
次の詩文を読まないとわからないよ。
では、「おかあさんは/うそをつくなと いうけど」と続きますが、さあて描けますか。
こういう絵本の読み聞かせって難しいだろうな。
単に朗読だったらできるかもしれませんが、絵とうまく調和できるだろうか。
そんな難しい詩に、1986年生まれの若いイラストレーターの中山信一さんがなんともぴったりの絵を描きこんでいます。
谷川さんの詩をじっくり読み込み、そのあといったん離れて自身の世界を思い描く、そしてまた谷川さんの詩に寄り添う。
そうして出来上がった絵本のように感じました。 (夏の雨さん 60代・パパ )
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