ぴったりの日に、ぴったりの人に、ぴったりの本を。それが、本おじさんのモットー。
広いインドのちいさな街角、そこに、本おじさんの「まちかど図書館」はあります。板の上に積まれた本と、寄付のお金を入れるための小さなブリキ缶。そして色あせた看板には、こんな言葉。
「本の貸しだし無料 一さつ返して 一さつ借りよう 読もう 読もう もっともっと読もう!」
本を読むことが大好きな女の子ヤズミンは、まちかど図書館でイチバンの常連さん。八歳になったその時から、本おじさんが勧めてくれる「ぴったりの日のぴったりな本」を一日一冊読み進め、なんとその数四百冊!
「最高! インドで、このまちかど図書館よりいい図書館なんてある?」
ところが、そんなまちかど図書館が大ピンチに! 市の決定により、許可証をとらなければ図書館をひらけなくなってしまったのです。でも、許可証をとるためのお金はなくて……。
「一日一さつ本を読んできて、四百二日。今日は読む本のないはじめての日になった」 ヤズミンはまちかど図書館を守るために何かできないかと、頭を悩ませます。 町中にあふれる、市長選の選挙ポスター。だれかが市長に宛てて書いたという、まちかど図書館に関する苦情の手紙。そして、本おじさんが選んでくれた、心から離れないインドの童話。悩む少女を取り巻くそれらがひとつに絡み合い、やがて、ヤズミンはおどろきのアイデアを思いつきます。
読もう、読もう、もっともっと読もう! なんて楽しくて、エネルギーにあふれた言葉なんでしょう! 本を心から愛する少女が、自分の正しいと思うことのために立ちあがり、おとなやその社会に堂々と立ち向かう。その姿に心熱くなる一冊です。
なんで、子どもに選挙権がないの? 映画俳優に投票することに、問題なんてある? おとなは、当選したら約束をやぶるの? なんにでも興味を持ち、するどい観察力でおとなたちと社会とを見つめる、ヤズミン。彼女がいだくおとな社会に対する素朴な疑問は、あどけなさがありながらも、痛烈で、痛快です。そんなヤズミンがときに九歳らしく悩み、怯えながらも、愛するもののために戦う姿を読めば、誰しもいつの間にか、拳に力を入れて彼女のことを応援しているはず。
また、九歳の少女の視点から描かれる、日本とはなにもかもが違うインド文化もみどころです。山盛りの洋服の前、石炭を使ったアイロンでシワを伸ばすアイロン屋。グァバやバナナを山盛りにして売る、果物売り。クラクションを鳴らしまくるスクールバスに、道路をゆきかう三輪タクシー。そして学校のお昼休み、ガジュマルの木の下で食べるお弁当。細かな描写のひとつひとつにも異国情緒があふれ、インドの下町、その雑然としていておおらかな空気が、行間から匂い立つようです。
まちかど図書館を守るために奮闘するヤズミンでしたが、どんな道にも困難はつきもの。そんなヤズミンに力を与えてくれるのは、やっぱり、本おじさんの本でした。
「あのとき、本おじさんは、ぴったりの日にぴったりの本だと教えてくれた。 今日が、その日だ。これが、その本だ。」
社会と自分との関係を見つめ、できることを考えて行動を起こす。そんなヤズミンの姿勢に、これからの時代に大切な生き方についてのメッセージが込められた物語です。
(堀井拓馬 小説家)
声を上げよう! 大好きなこの図書館を守るために──
インドに住むヤズミンは、本が大好きな女の子。本おじさんの〈まちかど図書館〉で本を借りるのが、毎日の楽しみだ。ところが、何者かの通報により、本おじさんは図書館を続けられなくなってしまう。本おじさんを助けたいヤズミンは、読んだ本と市長選挙をヒントに、あることを思いつく……。
ひとりの女の子が社会を動かす! 勇気と希望にみちたストーリー
*行動力、読書の力、選挙、異文化、SDGs(小さな図書館の活動など)… これからの時代に大切なテーマがえがかれた作品です。
インドで、路上で無料の図書館を長年行っているおじさんと、常連客の少女の話。
無料で文字を教えたり、教育が受けられなかった人たちのサポートをしている「まちかど図書館」のおじさん。
毎日1冊は本を読むことを楽しみにしている少女と、その友達たち。
学校の先生、アパートの住民、バスの運転手、選挙に立候補している人たち…それぞれの人生が鮮やかに目の前に広がり、それぞれの思いや、野望、来し方までもが見えてくる。
思ったことをはっきり表現して、人生を楽しみ、自分の哲学や大事にしているものをしっかり持って生きているインドの人々が、生き生きと描かれている。
お話は、インド映画のような大どんでん返しや、思わぬ展開にハラハラしながらも、最後はハッピーエンド。
文字が大きくて、そんなに長い話ではないのに、心に迫って来る場面が多く、考えさせられたり、感情移入するところが多くて、読み応えがあった。2時間くらいの映画を見たようにエネルギーを使った読書体験だった。
この話で一番心に残ったのは、おじさんの生き方。
教育者として大事な事や、人として大事なこと、ひとりひとりの幸せが地域社会や世界の幸せにつながることなどが、よくわかった。
本を通して、素晴らしい叡智に繋がり、主人公の少女と共に、読者も成長していける素敵な物語りだと思った。
キャラクターが全員、濃いので、その一人ひとりにも物語が想像できて楽しい。
生きることの厳しさや、人のずるさや面倒なところも、全部描かれていて、容赦なく人間を堪能できる物語でもある。
心に残った。 (渡”邉恵’里’さん 40代・その他の方 )
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