|
まずしいかさやさんが,雨の日に出会った女の子にすてきな青いかさを作ってあげました。そのかさはひょうばんになり,町は……。
アジサイの花が大好きです。
わたしは秋も近い夏の終わりの生まれ。梅雨の季節には特に思い入れがあるわけでもないし、むしろうっとうしい季節はきらいです。・・・・だのに、どうしてだか、もうずっと昔から、アジサイの花だけにはこだわりがありました。好きな花はと聞かれれば、迷うことなくこの花の名前を挙げるし、学生時代のいちばんの思い出の写真は、学内で友人が撮ってくれた、アジサイがずーっと咲き続く土手の前での、テキストを抱えたワンショットです。そして、花言葉が「移り気」であるにもかかわらず、結婚式の披露宴でのお色直しの水色のドレスには、アジサイの透かし模様が入っていたのでした。
どうしてそんなに好きになってしまったのか。
雨のしずくをたくさん載せて、時折り、するっ、ぽとん・・・と花びらから、そして美しい黄緑色の葉からこぼれ落ちる水音、その風情には、だれの目をもひきつける、なんとも言えぬ魅力があることは確かでしょう。
走り梅雨とでも言えそうな雨の日が続くある日、図書館から、もうだいぶ久しぶりにこの「青い花」を借りてきました。
このお話は、わたしにとって、「子どもの頃にお引越しして別れたきり、たまに思い出しては気にしつつ、もうずいぶん会わずにいて、すっかりおとなになってから、思わぬところで再会した友だち」 みたいなものなのでした。
ストーリーだけは鮮明に覚えているのに、お話のタイトルも、作者も、すっかり忘れてしまっていて思い出せなかったのです。それがとてももどかしくて。
小学校の2年生のとき毎月講読していた雑誌の別冊に「読み物特集号」というのがあって、それに載っていたのが初めての出会いでした。
傘作りの質素で勤勉な若者。
雨にぬれそぼってたたずむ、水色の服を着た女の子。
女の子の傘を作るため、ふたりが一緒に訪れたデパートの生地売り場のあふれる色彩。
その中から女の子が選んだ青い布。
・・・いい傘が作れたと満足する若者。
殺到する「青い傘」の注文。町にあふれる青い花の群れのような傘の波。
一躍お金持ちになり、腕前にもいっそうの自信をもつようになってしまった若者。
修繕をし、ものをいとおしむ心をどこかに忘れてしまった彼におとずれる寂寥と後悔。
降りしきる雨の中、忘れてしまった大切なものに気づいた若者が、水色の服を着たあの女の子だと思って駆け寄ってみると、それは・・・
あれからもう何年も経ち、我が子とともに図書館を訪れる年齢になって、ちょっと大きい子が読むコーナーにあった安房直子さんの童話集を手にしたとき、期せずしてこの旧友に再会することになったのでした。あーっ、と、ため息とともに懐かしさがこみあげて、抱きしめたいほど興奮してしまったのを覚えています。ほんとに、このお話が人間の形をしていたならば、お互いにひしと抱き合っていたことでしょう。
そのあと、独立した絵本としても刊行されているのを知りました。おなじみ、南塚直子さんとのコンビによるものです。やさしいやさしいパステル画。わたしが小2のときに読んだものには、白黒の簡単な挿絵だけしかなかったのですけれど、この絵本の最後のページ、最後のシーンを開いたとき・・・はっと、わかったのです。
どうしてずっとアジサイにこだわり続けていたのか。どうしてこれほどまで心奪われる花となっているのか。
南塚直子さんは、あのときのわたしがおとなになっても忘れず抱きつづけていたイメージどおりの絵を、描いてくださっていたのです。 (あしたはいい日さん -・絵本紹介サイト )
|