「弟がいたら、いいなあ」 そう願っていた四年生の健太の前に現われたのは、「ロボットかします」という文字がきらきら光る小さなお店。ロボットがほしい人にしか見えないというその文字が見えた健太は、お店の中に招かれ、おこづかい全部とひきかえに、弟ロボットを手に入れます。名前はツトム、六さい、小学一年生。性格は元気で明るい子。自分の好きなように設定し、準備完了です。けれど家族や友達にはどうやって説明すれば良いのでしょう?いやいやそんな心配はいりません。ロボットからは特別な電波が出ていて、ロボットに出会った人はみな最初から健太に弟がいたと記憶が変えられてしまうとのこと。健太がばらしてしまわない限り、ツトムがロボットだとばれることは決してありません。
こうして、あっという間に弟ができた健太は、ツトムがかわいくて弟ができたうれしさでいっぱいです。しかし、いいことばかりではない現実が健太の前に次々にやってきます。健太だけの特等席だったお母さんのひざの上が取られる、テレビのチャンネル争い、大好きなおやつのポテトチップスを全部食べられてしまう…兄弟がいる人には何やら身に覚えのある風景ですよね。
健太も初めのうちは、ぼくはお兄ちゃんだから…と我慢していましたが、そのうちけんかになると「お店に返すぞ!」と小さな声で弟につぶやくようになります。するとツトムが言うことを聞くので、健太は反則だと思いながらも、この「まほうのことば」を使うことがやめられません。そしてとうとう…。
小学校では、五年生のクラスにお薦めをして、担任の先生から毎日一章ずつ読み聞かせをしてもらいました。兄弟がいる子もいない子もそれぞれに感じるものがあったようで、みんなとても真剣に聞き入っていたそうです。子ども達にとっては、兄弟というのは身近で特に関心の高いテーマ。図書室でもお話の設定を話しただけで、読みたい!という子が続いて、いつも貸出中の人気の1冊でした。1人で読むなら、四年生ぐらいからお薦めです。
(秋山朋恵 絵本ナビ編集部)
学校の帰り道、「ロボットかします」という店を見つけた健太は、自分のこづかいで弟ロボットを手に入れた。願いがかなって楽しい日々が続いたが、兄として我慢しなければならないことも出てきて、けんかすることも。第19回小川未明文学賞大賞受賞作品。
「兄弟が欲しい」
これは一人っ子が一度は言う言葉ではないでしょうか。
けれど、「弟が欲しい」という安易な気持ちでロボットをレンタルした健太が、だんだんと弟を可愛いと思えなくなる気持ちの大部分は、お母さんを取られた!と感じる寂しさからきていたのではないか。そう感じられる展開でした。
一人っ子が急にお兄ちゃんになるのは難しい。
全てを下の子と共有だったり、上の子だからと我慢させられたりというのに納得出来るのは、やはりお母さんから生まれて、赤ちゃんと一緒に過ごして親も子も成長する、日々の積み重ねがあるからこそなのかもしれないと思いました。
後半では、怒涛のように押し寄せる健太の後悔が、胸に迫ります。
そして最初からこうなるであろうことを予感していた弟ロボットのツトムの手紙が、自分にはどうすることも出来ない悲しさと、それでも健太のことが大好きだったという気持ちにあふれていました。
健太はその思いを胸に、一歩ずつ心の成長を遂げられるのではないか。
そう思わせるラストでした。 (hime59153さん 40代・ママ 男の子6歳)
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