ひっそりとした海べの村を舞台に,心さびしい少年と白鳥とのふれあいを,少年の出生の秘密をからませながら,きめ細かにえがく。
『ポリーとはらぺこオオカミ』で思い切り楽しませてくれたストーが、これほどナイーブで心の奥底から湧き出てくるような名作を描いていたことに感動。
何故か、過去形になってしまっている市場にがっかり。
そんな作品を掘り起こしました。
おばあさんと二人暮らしの少年は、自分とおばあさんの関係が解っていません。
気難しくて、自分勝手に見えて、自分を押さえつけて…。
反発を感じているけれど、唯一の保護者のおばあさんの前に、少年は孤独を感じていました。
そんな少年が見つけた宝物は、死んでしまった親鳥が温め続けていた白鳥の卵でした。
死んでしまった母鳥のもとから持ち帰った卵からヒナが生まれます。
少年にとっては、おばあさん以上に家族そのものだったのです。
白鳥はよちよち歩きから、次第に育っていきます。
少年にとって仮想の家族そのものの白鳥と、自分にとって軋轢であるおばあさん。
そのおばあさんが倒れ、病院に入ってしまったら少年の生活は一変してしまいました。
少年は施設に入れられ、白鳥と会えなくなりってしまいました。
それからの展開が筆舌。
自分を親のように思っていたはずの白鳥の子は成長して、相手を見つけ少年に刃向うまでになります。
それが白鳥にとっての野生であり、成長なのですが。
少年にとっては、とても悲しい別れ。
おばあさんの死よりも、自分にとっての重い悲しみだったのです。
おばあさんの死は、少年にとって不明だった自分の来歴を掘り起こしてくれました。
少年の母親の存在が解りました。
少年の出生にとっては、若すぎたお母さんだったから、養子縁組を探し続けた結果のおばあさんとの生活だったのです。
母親を知らずに育った少年。
少年を「切り捨てる?」ことで現在の生活がある母親。
親が試されるような設定でした。
おばあさんは亡くなり、少年は施設に入るのではなく、初めて自分の母親と生活を始めようとしています。
白鳥は、少年の宝物ではなく、親である少年から巣立って自分の世界に踏み出していきました。
少年にとって何が幸せなのかはわかりません。
ただ、少年の世界だけでは社会は動いていない。
私にとって深い思いのある映画の「禁じられた遊び」のように、子どもの世界と社会の対峙した物語。
なんだか、心に沁み込んでくる作品なのです。
できれば、多くの人、とくに親に読んでもらいたい児童書だと思います。 (ヒラP21さん 50代・パパ )
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