小学4年生の主人公の家に、雨の日の落雷で海賊船が落ちてきた。乱暴でワガママな海賊トレジャは「この世の果てにある青くて四角くてうたうもの」を探すために、少年を強制的に手下にする。無茶な行動に辟易しながらも、少年は目的達成のために覚悟を決めるが…
版画作家の挿絵が印象的。文章と絵の力で、登場人物たちが実に魅力的に立ち上がる。それぞれ強烈な個性があり、アクが強く、めいめいの流儀で世界を生きている。端役でも、おのおのの人生が違う。その人たちが交流すると、別々の世界が交錯して新しい物語ができあがっていく。
どんな場面でも、人物たちの個性が失われることがないので、読者側は好き嫌いが別れると思う。少年や少女のワガママぶりと、海賊のそれとは種類もスケールも違うが、それぞれがやりたいように生きようとするとぶつかる。ぶつかりながら、妥協したり、方向転換したりしながらずんずん「宝」に向かって突き進む。物語は、人間の身勝手さと温かさ、予期していなかった素敵なものを体験できる。
異界と現実社会が交錯し、またそれぞれの人がもっている物語が交差していく。小学4年生のある一瞬を切り取った話だが、これからそれぞれの人物たちが辿っていく道を予感させて終わり、余韻や余計なお世話的な空想を楽しむこともできた。