穴に指をいれて、ぷっくり〜ぽっこり! 新感覚のあかちゃん絵本!
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インタビュー
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2021.06.10
ポップアップ絵本『とびだすえほん たべるのだあれ?』(東京書店)が刊行から1年で順調に増刷を重ねる、すぎはらけいたろうさん。ページを開いたり閉じたりすると、動物たちの口が立体的に動きます。インタビューの数日前には、世界的なデザイン賞を受賞されたというニュースも入ってきました。刊行1周年を記念して、お話をうかがいました。
──『とびだすえほん たべるのだあれ?』が、イタリア・ミラノに本部を置く国際デザインコンペティションA’Design Award(エーダッシュデザインアワード)2021で金賞を受賞したそうですね。おめでとうございます!
ありがとうございます。A’ Design Awardは、100か国以上のデザイナーが参加する世界的なデザイン賞。『とびだすえほん たべるのだあれ?』は「グラフィック、イラストレーション、ビジュアルコミュニケーションデザイン部門」の金賞とのことで、ポップアップの構造も評価されたのではないかなと。絵本やデザインに国境はないので、世界で見てもらえるきっかけになったらいいなと思っています。
この書籍を作った人
絵とデザインの仕事を中心に、近年は空間デザインのアートディレクションやモザイクタイルの壁画など、幅広い仕事を手がける。様々な素材を組み合わせた作品は、ガラクタを集めたオーケストラのように、にぎやかで楽しいハーモニーを奏でる。「とびだすえほん たべるのだあれ?」「トトのかんぱい」「パタンパ!」「ピーターとおおかみ」刊行。2021年「とびだすえほん たべるのだあれ?」A’ Design Award 金賞、Indigo Design Award 金賞/2018年「ソレイユ川崎・それいゆ保育園」キッズデザイン賞/2009年イタリア・ボローニャ国際絵本原画展 入選
───日本国内でも大人気で、絵本刊行から1年ほどで5回も重版がかかっているなんて、すごいです。
大手メディアに取り上げられたとかではなく、不思議と刊行1か月後くらいにはもう増刷が決まって。僕はこの絵本が5作目なのですが、こんなに続けて重版するのは初めてです。みなさんに気に入ってもらっているのかなと思うと嬉しいです。
───すぎはらさんは、以前、最初の絵本『あれあれなんだろな?』(発行:キッズレーベル、発売:自由国民社)が出版されたときに絵本ナビに遊びに来てくださったことがありましたね(2010年夏。記事はこちら)。
懐かしいですね。イギリスに2年いて、帰国したばかりの頃ですね。イギリス滞在中にイタリア・ボローニャ国際絵本原画展(2009年)に応募・入選して、本当はもっとイギリスにいたかったのですが、ビザの事情で帰国することになって。
当時、板橋区立美術館で毎年夏に開催される、イタリア・ボローニャ国際絵本原画展のポスターやチケットに、僕の入選した絵を使ってもらえてすごく嬉しかったです。入選をきっかけに日本で最初の絵本『あれあれなんだろな?』を出版することができました。そのときは親戚の男の子を思い浮かべて作っていました。
───あれから10年の間に、絵本だけでなく、空間デザインのアートディレクションなど幅広いお仕事を手がけられていますね。息子さんも生まれて……。
そうですね。息子は5歳になりました。『とびだすえほん たべるのだあれ?』は実は息子が生まれる前からアイデアを練っていた作品なんですよ。制作中にずいぶん実験台になってもらったので、息子は文字が読めなくても全部暗記しています(笑)。
───「バナナ たべるのだあれ?」「はーい!」。ページを開いたり閉じたりすると、動物たちの口が「モグモグ」「アムアム」と立体的に動くのがおもしろいですよね。どんなきっかけで制作を思いついたのですか?
帰国後に開いた個展で、たまたま見に来てくださった保育園の園長先生が「芸術教育をしたい」と声をかけてくれて、世田谷区の保育園で5歳児クラス(年長さん)の子と一緒に、絵を描いたり工作して遊ぶ時間を担当することになったんですよ。2009年から8年間、毎月1回、その保育園に通いました。
あるとき子どもたちと「わりばしゴム鉄砲」を作って遊んでいて、的当て用に僕が紙を使ってパパッと顔を作ったんです。厚めの紙に適当に切り込みを入れて「オニだよ」と顔を作ったら、「あ、これ、口がパクパク動いておもしろいぞ」と。顔の紙を二つ折りにして立てて“的“にして、鉄砲で飛ばした輪ゴムがうまく当たるとパタンと倒れますよね。
そんな遊びをしているうちに、「これ、ポップアップ絵本にできないかな」と……。きっかけはそこだったと思います。
───その後、どのように制作を進めていったのですか。
最初は「いないいないばあ」にしようかと思ったんです。そこから「何か所か切り込みを入れると、すぐ顔っぽく見えるようになるぞ」と気づいて、いろんな顔のポップアップを作ろうと。でも、考えるうちに「口がパクパク動くという動きが特徴的でおもしろいんだな」とわかってきて、「口が動く」「食べる」ことに特化した絵本を考えました。
───もともとすぎはらさんは絵本がお好きだったのですか?
母親が保育士だったので、子どもの頃から絵本はたくさん家にあって、読んでもらったり自分で見たりしていました。好きだったのは、かこさとしさんの『からすのパンやさん』(偕成社)ですね。うちのそばにも森があったので、もしかしたら絵本の中の「いずみがもり」も本当に存在するんじゃないかとわくわくしました。
───ポップアップ絵本にも興味があったのでしょうか。
ポップアップ絵本に興味を持ったのは大人になってからです。書店で初めてロバート・サブダの『不思議の国のアリス』(大日本絵画)を見たときは、「すごい! こんな絵本があるんだ」と衝撃を受けました。
自分もポップアップ絵本を作ってみたいと思ってから、試作をいろんな出版社に持ち込んでみたんです。でもロバート・サブダのような複雑なポップアップ絵本は、海外で作られた作品の版権を日本で買っているものが多く、日本で僕のような一作家が単独でポップアップ絵本を作るのは、コスト面でハードルが高いと知りました。それもあって、切り込みを入れるだけのシンプルな、一枚の絵のポップアップができないかなと試行錯誤していました。
───たしかに『とびだすえほん たべるのだあれ?』はシンプルな切り込みと折り方で立体的になっています。制作初期から完成まではどんな変化がありましたか?
初期の試作はひと回り小さくて、Z折りの一番上の絵に動物の手を描き込み、横に開くと、切り込みがあって口が動くようなポップアップ構造でした。
でも編集者から、もっと顔を大きくしたほうがいいとアドバイスをもらい、現在の形になりました。口の動きがよりダイナミックな印象になったと思います。
───具体的な制作工程を教えてください。
まずデータ上でラフ画を描きます。そしてラフにあわせて、切り込みの入れ方や、山折り、谷折りといった指定をする、“切り抜く・折る型の版”用のデータを作ります。さらに、それとは別に原画を作っていきます。原画はアクリルガッシュなどで着彩した紙や古紙をコラージュしています。
───デジタルのコラージュではなく、実際に紙と紙を貼り合わせたコラージュなのですね。
個人的なこだわりとして、やっぱり絵本は原画で作りたいんです。いつか大きな美術館のようなところで原画展をできたらいいなという夢があって、今までの絵本もすべて手で制作し、原画は保管してあります。
制作の順番としては、先に古紙などをコラージュしてから全体に色を塗ってなじませ、形に切る場合もありますし、逆の場合もあります。たとえば、ブタの肌のテクスチャーをバーッと重ね塗りして先に作り、「模様がほしいな」と思う箇所に手でちぎった古紙を貼って、最後に周囲の色やテクスチャーとなじませることもありますね。
そうやって、できあがった原画を撮影して、その撮影データと、切り折り指定のデータを重ね合わせ、細部を調整しつつ入稿データを作ります。印刷・製本時にわずかなズレで違和感が出ないようにしています。
───ズレというと、たとえばどんなふうに?
たとえば「この切った部分から、カエルの目がはみ出しているぞ」とか……。印刷された絵と、切り込みや折り筋がズレないようにするのが、いちばん難しいんですよ。ぴったりになるように調整するのは、本当に大変でした。印刷・製本所に何回か試作品を作ってもらったんですが、最初はすごくズレてしまって。
この絵本は僕がデザインもしていて、自分の絵本を自分でデザインできる喜びもあるのですが、あまりの画像調整の細かさに「これはきっと僕だからできる絵本なんだ」と何度も思いました(笑)。
───絵本を作る前は、デザイナーだったのですか。
そうですね。今もデザイナーの仕事もしていますし、あれこれやっている感じです。
もともとは、僕が高校を卒業するくらいに、地元の名古屋でテクノやヒップホップが流行り出し、遊びに行っていたクラブで「美術系の大学生なら、フライヤー作ってくれない?」と声をかけられたんですね。大学は確かに美術系でしたが、版画や彫刻、映像など幅広く学ぶ感じで、グラフィックデザインを学べたわけではなく……。ただ学校の紹介で、グラフィックソフトウェア入りのパソコンを買うことができたので、それを使って、独学で覚えました。
グラフィックデザインが楽しくなって、大学卒業後はデザイナーとして働き始めました。不動産関係、カルチャー関係などで学ばせてもらったのですが、2社目のデザイン事務所を急に退社することになったとき「これからどうしようかな」と思って……イギリスに行くことにしたんです。
───なぜイギリスに?
大竹伸朗さんの『倫敦 香港 一九八〇』(用美社)という本が好きで、「かっこいいな」とあこがれていたんです。「どこか行くなら、同じ場所に行ってみたい」と思って、仕事も何も決まっていないまま、ただ行きました。最初の数か月はサインドイッチ屋さんで、その後は在英日本人向けのタウン情報誌の会社で広告デザインをしていました。
───そうなんですね! ロンドンでは、どんなところに住んでいたのですか?
僕が住んでいたイーストロンドンのブリック・レーンのあたりは移民が多く、エスニック料理店も多かったし、屋台でソーセージを焼いていたり、ストリートミュージシャンやタップダンスを踊っている人がいたり、雑多な空気感がありました。
家から歩いて5分のところで毎週蚤の市があって、ヘンなものがいっぱい売っているんですよ。壊れたコップとか、片方だけの靴とか、「これ、誰が買うんだろう?」と思うようなものが(笑)。家賃が安いからか、芸術家の卵のような人たちも住んでいて、ジャンクなものが売り買いされる蚤の市はおもしろかったですね。
もう廃棄されるゴミにしか見えないような古紙の束が、1ポンドとかで売っていて、「コラージュ制作に使えないかな」と買うようになりました。
───コラージュ制作は、海外での生活から生まれたものなのですね。
最初は大竹伸朗さんの真似でしたが、だんだん「この制作方法は自分に向いている」と思うようになりました。紙を使った制作は大きな機材や工房も必要ないし、出不精の僕にとってすごく楽というか自然で。外国語で印刷された文字、切手の模様、ざらっとした質感も「紙っていろいろでおもしろいな」と……。ボローニャに入選したことでコラージュ制作の手法に自信が持てるようになっていったと思います。
───「絵本を作りたい」という思いは、いつ頃からあったのでしょうか。
いつからだろう……。イギリスに行く前も絵本を作りたくて、自分が好きだった『からすのパンやさん』みたいなストーリー絵本を、ギャラリーのコンペや出版社の絵本賞に応募してみたんですが、賞には引っかからなかったんですね。「文章って難しいな……」とも思いました。
デザイナーの仕事もおもしろいですけど、昔から「子どもたちと遊びながら一緒に何かをやること」がずっと好きで、僕にとっては自然にできることだったんです。 たとえば、自分自身も親が働いていたので学童クラブに行ってたんですけど、高校卒業後18歳から20 歳まで、その同じ学童クラブでアルバイトをしていました。
就職してイギリスへ行って、帰国後に保育園でまた5、6歳の子と遊ぶようになって……。ちょうど息子が生まれたこともあり、だんだんその頃から、低年齢向けの絵本を作りたくなりました。今、興味があって、創作意欲があるのは、より下の年齢向けの絵本です。
───すぎはらさんにとって絵本制作とはどんなものですか?
人生のそのときそのときの集大成であり、自分の「やりたいこと」や「好きなもの」が詰まったものかな。デザインも自分でするので、それも含めて、楽しいところです。
───『とびだすえほん たべるのだあれ?』には、丸ごと1冊、すぎはらさんの想いがぎゅっと詰まっているんですね。次の作品がどんなものになるのか、とても気になるのですが、今後の絵本の制作予定を教えてください!
『とびだすえほん たべるのだあれ?』で、本をパタパタする動きと、口がパクパクする動きの連動性がおもしろいことに着目できたので、ここはまだまだ追求したいと思っています。続編を制作中ですが、「食べる」以外の何かおもしろいポップアップもできたらいいなと思っています。
───最後に、絵本ナビ読者へメッセージをお願いします。
あまり大事にしまい込まずに、どうぞ、ビリビリになるくらいまで遊んでください。お子さんの指が引っかかったくらいでは破けないよう、なるべく厚い紙を使っていますが、紙ですから、破れて当たり前。「ああ破れちゃう」とお子さんを止めたりせず、動物の口に手を入れたくなるなら、おままごとのニンジンでもスプーンでも突っ込んでもらって(笑)。自由に遊んでほしいと思います。
僕の周りでは、お父さんが子どもに読んでいるときに、最後にカバが大きく開けた口でワーッと子どもの頭を食べちゃうとか、そういうふうに楽しく読んでくれている動画を送ってくれる人もいます。
読むだけでなくいっぱい遊んでもらって、テープをいっぱい貼ってもらえたら本望です(笑)。
───ありがとうございました。
取材・文:大和田佳世(絵本ナビライター)