酒井駒子によるロングセラー絵本の新装版
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おばあちゃんが話してくれたのは、海辺のアトリエに暮らす絵描きさんと過ごした夏の日のこと。それは、いつまでも色あせない特別な思い出で……。毎月発売される新作絵本の中から、絵本ナビが自信をもっておすすめする「NEXTプラチナブック」。今回ご紹介する絵本は『海のアトリエ』。登場するのは「子どもを子ども扱いしない大人」。どんな内容なのでしょう?
NEXTプラチナブックとは…?
絵本ナビに寄せられたレビュー評価、レビュー数、販売実績など、独自のロジックにより算出された人気ランキングのうち、上位1000作品を「絵本ナビプラチナブック」として選出し、対象作品に「プラチナブックメダル」の目印をつけてご案内しています。
そして、毎月発売される新作絵本の中からも、注目作品を選びたい! そんな方におすすめするのが「NEXTプラチナブック」です。3か月に一度選書会議を行い、「次のプラチナブック」として編集長の磯崎が自信を持って推薦する作品を「NEXTプラチナブックメダル」の目印をつけてご案内します。
みどころ
「おばあちゃん、この子はだれ?」
それは、おばあちゃんの部屋の壁にかざってある、女の子の絵。おばあちゃんの部屋がなんだか居心地がよくて、時々こうしておしゃべりをする。おばあちゃんは、「この子は、あたしよ」と言い、その絵を描いてくれた人の話を、私に話してくれた。
学校に行けなくなっていたあたしに、ひとりで遊びにおいでと誘ってくれたのは、海辺のアトリエで暮らす絵描きさん。その人は、海が見える部屋で描きかけの大きな絵に向かい、夢中で絵を描き続けるの。あたしがいることなんて、忘れちゃったみたい。だけど、ちっとも退屈しなかった。
見たことのないメニューが並ぶ食卓、外国の画集や写真集であふれる本棚、アトリエの隅に置かれたベッドで眠る夜、朝ごはんの後の海辺の散歩。
「心の中でつくった物語を、そのまま描いちゃえばいいのよ」
絵描きさんの横で、あたしも絵も描いた。そして、美術館に連れて行ったもらった後、お互いの顔を描くことになったの。
おばあちゃんが経験したのは、心が開放された宝物のような日々。ずっと覚えていたいと思った夏。海をじっと眺めながら、その記憶をしっかりと焼き付けようとする姿を見ていると、胸が熱くなってきます。
家でもなく、学校でもなく。一緒にいるのは自分を「子ども扱いしない」大人。話を聞きながら「私も会いたい」と思ったのは、主人公の少女だけではなかったはずです。
自身の経験を重ね合わせながら、忘れがたい一つ一つの魅力的な場面を丁寧に美しく描き出しているのは、画家としても活躍をされている 堀川理万子さん。この特別な物語を絵本として味わえる贅沢。一人でも、親子でも。ゆっくりと堪能してみてください。
絵本で見た光景だとしても
個人的なエピソードを背景に生まれた話のはずなのに、絵本を開けば、確かにそこにアトリエがあり、絵描きさんがいる。何度も読んでいるうちに、その開放感を味わい、不思議な食卓にドキドキし、少し背伸びしているような気持ちにもなり。そしていつしか、この絵本でみた風景を「忘れたくない」と思うようになるのです。絵本の中でも「特別な日々」というのを経験することが出来るのかもしれない。そんな風に思わせてくれる1冊です。
この書籍を作った人
1965年、東京都生まれ。東京芸術大学美術学部デザイン科卒業、同大学院修了。絵画作品による個展を毎年開催するほか、グループ展、出版など幅広く活躍。絵本に『ぼくのシチュー、ままのシチュー』(ハッピーオウル社)、『おへやだいぼうけん』(教育画劇)、『げんくんのまちのおみせやさん』(徳間書店)、『権大納言とおどるきのこ』(偕成社)、挿絵作品に『バレエ名作絵本 くるみわり人形』(石津ちひろ/文、講談社)など多数。
磯崎 園子(いそざき そのこ)
絵本情報サイト「絵本ナビ」編集長として、絵本ナビコンテンツページの企画制作・インタビューなどを行っている。大手書店の絵本担当という前職の経験と、自身の子育て経験を活かし、絵本ナビのサイト内だけではなく新聞・雑誌・テレビ・インターネット等の各種メディアで「子育て」「絵本」をキーワードとした情報を発信している。著書に『ママの心に寄りそう絵本たち』(自由国民社)がある。