『霧のむこうのふしぎな町』の柏葉幸子、デビュー40周年記念作品。 岩手県出身、盛岡市在住の柏葉幸子氏が、ついに東日本大震災をモチーフに筆を執った! 児童文学の大家が描く、日常ファンタジーの意欲作
あの、おそろしい地震のあった日、萌花ちゃんは、会ったこともない親戚にひきとられるために狐崎の駅を降りました。そして、たまたま同じ電車に乗ったゆりえさんは、自分の境遇と似た萌花ちゃんから目が離せず、いっしょに駅を降りてしまいました。ゆりえさんは、暴力をふるう夫から逃れるために、あてもないまま東京から見ず知らずの北の地へと向かっていたのでした。
そんなふたりの運命を変えたのは、狐崎のまちを呑み込んだ巨大な津波でした。
中学校の体育館に避難したふたりは、身元を問われて困惑します。だって、帰れる家、帰りたい家はないのです。手をにぎり合うふたりに救いの手をさしのべたのは、山名キワさんという、小さなおばあさんでした。
その日から、ゆりえさんは結(ゆい)さんとして、萌花ちゃんはひよりちゃんとして、キワさんと、世代の違う女性三人の、不思議な共同生活が始まったのです――。
遠野物語を彷彿とさせる東北の民話が随所に挟み込まれるほか、河童や狛犬といった異世界の住人たちが数多く登場する日常ファンタジー。
東日本大震災と遠野物語がミックスされた心の深い場所を癒す物語。
というと俗っぽいのだが、実際東北在住の作者が、きっと大好きな土地に住まう人々に心痛めて語った物語ということがひしひしと伝わってくる。
どうしようもなくつらく、けれど逃げられない現実を前にした時、人々は物語りしてきた。それは古代より続いてきたこと。
中でも遠野物語という歴史ある物語を使い、まるでファンタジーセラピーとでもいう時間をくれる一冊である。
特徴は、外側からの視点ではなく、内側から震災を書いていること。完全内側の人が書いていて、無駄なかわいそう感や頑張れ感、絆!なんてものがなく自然に読める。
ただ文章がいつもの柏葉さんらしくない。
新聞連載だと字数や展開などのくくりがあるからか、どうも散逸的で、物語に組み込まれていて気づかなかったよ的伏線回収の感動が薄かった。
結局おばあさんは何者だったのだろう。エピローグがもう少し欲しかったな。
人に非ざるものも東北を心配してくれていたんだね。ほっこり。
ここで調べたからか、2016年年明け早々「遠野物語」を編著出版されている。合わせて読みたい。 (てぃんくてぃんくさん 40代・せんせい 女の子14歳)
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