里から山につながる雪野原を、赤い毛布をまとった男の子が、山の家を目指して登って行くところから物語は始まります。 それを、小高い山から眺めているのは、雪狼をつれた雪童子。雪婆んごが遠くへ出かけている間に、季節の移り変わりを告げにやって来た雪童子は、男の子にヤドリギの枝を投げてやりました。 雪童子の姿は目には見えないので、びっくりしてその枝を拾う男の子。ヤドリギがその後、自分の命を救ってくれるお守りになるとつゆも知らずに。
そこへ突然、冷酷な雪婆んこが戻って来て、一帯を吹雪で荒らすよう雪童子たちに命令するのでした。あの雪童子だけは、男の子の泣き声に心を痛め、「毛布をかぶって倒れておいで」と懸命に教えますが、男の子には吹雪の音しか聞こえません。雪に埋もれていく男の子の運命は…。
黒井健さんのイラストは、雪の怖さと美しさを同時に伝え、物語をより格調高いものにしています。雪狼や雪童子、吹雪の描写は、透き通るような青と白を基調にし、その中でけなげに生きる人間の命や春への希望が、毛布の赤、ヤドリギの萌え木色によって象徴されているようで心に沁みます。
水仙月とは、春近い頃をさす、賢治の創作の月だそうです。冬の厳しさを、雪婆んこや雪童子といった架空の存在に例えて、雪深い地方のドラマチックな季節の移り変わりを、美しく幻想的に描き出した作品です。
(長安さほ 編集者・ライター)
春の訪れを告げる雪嵐の日の激しくも美しいできごと。そのとき雪童子がぷいっとなげつけたヤドリギは、生命のシンボル。雪嵐の中、死にかける子供の生命はまさに、その雪によって守られた。冬の中には春がひそみ、死の中には生命が宿る。子供は雪の中で、目覚めと再生の時を待つ。大いなる自然へのおそれと感謝を込めた宮沢賢治の傑作!春への予感をふくんで冬の終わりを告げる花、それが水仙。透明感のある青い世界がここにあります。
▼「宮沢賢治の絵本」シリーズ
【著者プロフィール】 黒井 健 1947年新潟県生まれ。新潟大学教育学部美術科卒業。出版社に入社して2年間絵本の編集に携わった後、フリーのイラストレーターとなる。以降、絵本・童話のイラストレーションの仕事を中心に活躍。雑誌「詩とメルヘン」(サンリオ)に掲載した一連の作品で1983年第9回サンリオ美術賞、「またたびトラベル」(茂市久美子・作/学習研究社)で2006年第20回赤い鳥さし絵賞を受賞。主な絵本に「ころわん」シリーズ(間所ひさこ・作/ひさかたチャイルド)、「ごんぎつね」「手ぶくろを買いに」(新美南吉・作/偕成社)など多数。他に「リリアン」(山田太一・作/小学館)などがある。
宮沢賢治作品は文章から受けるイメージが強く
読む人それぞれの持っているイメージに合うか合わないかで
好ききらいが完全に決まっちゃう…って感じがするんですが
この本はそういう意味で、ワタシの
「ベスト・オブ・水仙月の四日」です。
黒井健さんって
どの作品を読んでもブレなく絵が美しいのですが
個人的には、そこで終わっちゃってる作品も多い気がして
はがゆい気持ちになったりすることがあって。
もっとこの先まで描ける方ですよね?と。
(描きもしない絵本読みが何をゆーかってアレなんですけど★)
なので
この作品を見たときは
「やったー!!!」でした。
色が!
風景が
雪婆んごが!雪童子が!
悲鳴が上がりそうなほど透明感と冷たさにあふれていて
素晴らしいという言葉が陳腐に感じるほど感激しました。
こどもの赤毛布のあざやかなこと。
やどりぎの生き生きしていること。
これがまた、風景の冷たさの中のコントラストでハッと魅せる!のですよ〜。
(とはいっても、黒井さんの描くこの作品では
主人公はあくまでも冬と雪と雪童子ですけども)
天気が変わり
明るい雪の合間の天気から
吹雪になる色合いもドキドキするような不安さで。
雪婆んごが、雪童子が、雪狼が飛び回るその様子
雪童子のほっぺがほんのり紅くて、いかにも童子らしくて。
乱れた髪に風の強さ、激しさが感じられます。
(雪婆んごがまたコワいんだ★
小さい子だと夢に見そうw)
そして
雪がやんだ後の静けさ。夜の澄んだ空気。
風どころか、星のまたたきまで止まっているような。
翌朝の冷たい太陽と
雪童子によって掘り起こされたこどもに
それを迎えに来たのであろう人影まで。
いやもう
たっぷり堪能いたしました!
こんな名作はなかなかお目にかかれないと思います。
未読の方にはぜひ!ご一読いただきたいです。 (しろいまちこさん 40代・その他の方 )
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