昔、秋田に八郎という名の山男が住んでいました。 八郎は樫の木ほどもある大男でしたが、もっともっと大きくなりたいと願い、どんどん大きく育ち、山ほども大きくなりました。 ある日八郎は、村の田んぼが荒れた海に飲み込まれるのを必死で防いでいる村人たちを助けようと、渾身の力で山を動かし、海の中に放り込んで、海の水を堰きとめます。 村の百姓たちが喜び感謝したのも束の間、怒り狂った海が沖の水まで集めて津波となって村に押し寄せてきます。 八郎は村を守るために海に入り、自らが堰となって波を食い止めます。 波と闘い、海に沈みながら、八郎はなぜ自分がこれまで大きくなりたかったのかを悟ります。
秋田弁で描かれた文章に、滝平二郎氏の力強い版画が実によくマッチしています。 どんどん大きくなりながらも、もっと大きくなりたくて、浜に出ては海に向かって叫んでいた八郎。 しかし自分でも、なぜ自分が大きくなりたいと思うのかがわからなかったのです。 村の人たちを助けたい、泣いてる子どもの力になりたい、そのために海に沈んでいく八郎。 自分の生まれてきた意味を知った八郎の表情はすがすがしく、その叫びは私たちの胸の奥に響きます。 「わかったあ! おらが、なしていままで、おっきくおっきくなりたかったか! おらは、こうしておっきくおっきくなって、こうして、みんなのためになりたかったなだ、んでねが、わらしこ!」
自分は何のために生まれてきたのか・・・そう悩んだことのある方なら、八郎の悟りに共感できることでしょう。 大人も子どもも、少し自信を失ってしまったとき、八郎から力をもらえるかもしれません。
(金柿秀幸 絵本ナビ事務局長)
大男の八郎はなぜ自分の体が小山ほどあるのか知らない。ところがある日、大波に田畑を流されて泣く百姓を見て、初めて自分が働く者のためにあることを知り、荒れ狂う海にむかいます。
学生時代に先輩が読み聞かせをしてくれた忘れられない1冊です。私に絵本の面白さや奥深さを提示してくれた絵本で、以来私の絵本好きは続いています。何回も子どもたちや学生に読み聞かせをしました。八郎のぶきっちょで飾らない生き方は5〜6歳の子どもたちには充分理解できます。秋田弁が少々難しいけれど、力強くて迫力満点の絵本だと思います。『好きな絵本は何ですか?』と聞かれたら迷わず「八郎」です、と答えてしまうくらい好きです。 (こぶた文庫さん 50代・せんせい )
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