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ぼくは、母さんが生まれ育った家で暮らすことになった。この家には、おじいちゃんがひとりですんでいる。おじいちゃんとぼくはきょうから家族だ。 おじいちゃんが庭に何かつくっている。鳥のエサ台だ。「鳥が来る」と、おじいちゃんはいうけれど、ぼくは「来るわけないさ」と思う。 ……おじいちゃんとぼくの心がゆっくりゆっくり、しだいに近づいていくようすを丁寧に描く、静かな時間の流れる家族の物語。
絵本作家と呼ばれる人は、
もしかしたら物語などを書く作家よりもたくさんいるかもしれない。
物語作家にもお気に入りの人がいるように、
絵本作家にもこの人の作品なら読んでみたくなる、
そんな人がいる。
石川えりこさんも、私にとっては、そんな絵本作家の一人だ。
石川えりこさんは私と同世代ということもあって、
絵から醸し出る世界観に共鳴するところがある。
いってみれば、昭和30年代の匂いというと、失礼だろうか。
2022年6月に出たばかりの、この『庭にくるとり』にしても、
物語の背景は決して昭和ではないが、
描かれる少年はじめ君の、どこか孤独感のする感情などは
やはり自分たちが育ってきた世界に近い。
この作品の書き出しには驚く。
何の前触れもなく、
「ぼくは母さんが生まれた家でくらすことになった。」で
始まる。
え?!
お父さんはどうしたの?
離婚? 死別?
何もわからないが、はじめ君がどうやら転校して
おじいさんの家に住みだしたことがわかる。
はじめ君の孤独をおじいさんが癒してくれる。
庭にやってくる鳥のことや樹木のことを
おじいさんはたくさん教えてくれる。
父親の不在を祖父が埋めていく。
そして、少年は次第に大人に成長していく。
この『庭にくるとり』は、
少年の成長物語なのだ。 (夏の雨さん 60代・パパ )
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