命を「解く」ということばを、ご存知ですか。 食肉解体業に携わる人々が、牛や豚を殺す、という意味で実際に使っている言葉です。 これは、食肉センターに勤めて実際に命を解くことを仕事にされている、坂本義喜さんのおはなしです。
牛の命を解いて、お肉にする。坂本さんはこの仕事がずっといやでした。 世の中の人々にとって大切な仕事だということはわかっていても、牛と目が合うたびに、仕事がいやになるのです。心のどこかに、いつか辞めたい、という思いを抱えていました。 あるとき、こんな坂本さんの気持ちを変える出来事があったのです。 小学校三年生の息子のしのぶくんの参観日。食肉解体の仕事をかっこ悪いと思っていたしのぶくんですが、仕事の大切さについて教えてくれた先生の言葉を受け、お父さんの仕事の偉大さを理解していきます。 息子の理解に励まされ、仕事を続けようと決意したある日、目の前に現れたのは一匹の牛と女の子でした。 「みいちゃん、ごめんねぇ。」謝り続けながら牛のお腹をにさする女の子。生まれた時から一緒に育ってきた牛のみいちゃんとの別れを悲しむその姿に、気持ちが揺らぐ坂本さんは、解体の仕事を休むとしのぶくんに打ち明けます。 「この仕事はやめよう。もうできん」そんな坂本さんに、しのぶくんがかけたことばは・・・。
講演で坂本さんが語るエピソードに感銘を受けた助産師・内田美智子さんが、本として綴った「いのちをいただく」。 10万部を超えるヒット作となった単行本は、その後漫画家の魚戸おさむさんがイラストを担当されて紙芝居に、そして今回絵本となって私たちのもとに届きました。 語る人、綴る人、描く人、作品として世に送り出す人。それを子どもたちに読み継いでいく人。様々な立場の人たちの想いがつながり絵本となった作品、こうして紹介する文章を打つ指も、自然に重たくなっていきます。 それほどに「命の重み」を強く問いかけられるのは、命を解かれている坂本さんご本人の声に基づいたおはなしだからでしょう。 生きるために食べること、食べるために働くこと、そして命を解くこと。全てはこのサイクルの上に成り立っている。 多くの生き物たちの命と人々の葛藤に支えられながら、私たちは今日も「いただく」ことができるのですね。
8歳になる息子、お肉を食べることが大好きです。その笑顔が見たくて、食卓に出してきました。 いつこの絵本を読もうか、少し悩んでいます。でも必ず、一緒に読みたいと思います。 読んだ後は、きっとこの言葉の意味をかみ締めながら、感謝して食事に向かい合えるはず。 「いただきます」。
(竹原雅子 絵本ナビ編集部)
10万部突破の感動作が手に取りやすい絵本に! 坂本さんが経験した“事実”が、いのちをいただくことの意味を、問いかけてきます。
先に単行本の方を読んでいたので、内容は知ってはいたけれど、牛のみいちゃんを「解く」シーンには胸がいっぱいになりました。
でも坂本さんのような人がいなければ、私たちは肉を口にすることが出来ません。
「殺す」と「解く」の間のジレンマはいたいほど解りつつ、そのような場面には堪えられないと思いつつ、肉を食べている自分は罪悪感を持つことはありません。
だからこそ、「いただく」という言葉を大事にしなければいけないと痛感しました。 (ヒラP21さん 60代・パパ )
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