![みどころ](/images/shoukai_midokoro.gif)
夢枕獏さんが書く中国の怪物、それも中国神話では「四凶」と呼ばれているすごそうなモノ。いったいどんなおどろおどろしいおはなしになるのかしらと思ったら、獏さんのやわらかな語りかけと、松本大洋さんの繊細な筆致で描かれた「こんとん」の愛らしいこと!
真っ白なふわふわの毛に覆われた、ずんぐりして丸い体に小さな6本の足。 目も耳も鼻も口もないからちゃんとはわからないけれども、 ただ空を見て笑って、そこにいる。 まるで、この世に存在すること、ただそれだけを喜んでいるみたい。
なあんにもできないし、なあんにもしない。 ただいるだけの「こんとん」の周りには、なぜか子どもが集まっている。 子どもだけじゃない、帝と呼ばれる偉いヒトまでやってくる。 でもその帝が、「こんとん」に目と耳と鼻と口を描いてしまい、大変なことに……。
その瞬間、自分がやったわけでもないのに、胸がギュウっと締め付けられて、強烈な罪悪感に襲われます。子どものころ、なにも考えずに軽い気持ちで引き起こしたことが、取り返しのつかない結果を目の当たりにした時のように。
そして……
次から次へと色んな思いが押し寄せてきて、気持ちはモヤモヤ。 しかし、最後の獏さんの言葉が、モヤモヤを救い取ってくれます。 読んだ後に、大きな大きな、優しさに包まれるおはなしです。
物語の元になっているのは、中国の思想家「荘子」の寓話です。読み手によっては、哲学的な教訓を感じることもできますし、漢文の解釈のひとつとして楽しむこともできます。 でも、そんなことをなんにも知らなくても、ただ絵本を読むだけでだいじょうぶ。 胸に湧いた思いに、無理に名前をつけなくてもだいじょうぶ。 ただ読んで、感じる。 それだけを純粋に楽しめる、だからこそ何度もめくりたくなる、珠玉の絵本です。
縦縞の、ざらりとした質感の紙で作られた幅広の帯。 ツルリとしたカバーの下に隠された、少し毛羽立ちのある質感の表紙。 そして「こんとん」のふわふわの毛を再現したような、透け感のある別丁扉など、 祖父江慎さんがと藤井瑶さんが手がけた美しい装丁も、ぜひ見て触って感じてみてください。
(中村美奈子 絵本ナビライター)
![こんとん](/images/4033328904_20181207120328_op1..jpg)
![こんとん](/images/4033328904_20181207120328_op2..jpg)
![出版社からの紹介](/images/shoukai_shuppansha.gif)
名前がないので、誰でもない。誰でもないから、何にでもなれる。それが、こんとん。六本の足を持ち、六枚の翼を持つけれど、目も耳も鼻も口もなく、いつも空を見あげて笑っている、こんとん。 そんな、こんとんのところに、ある日、南の海の帝と北の海の帝がやってきた。 帝たちは、こんとんに、二つの目、二つの耳、二つの鼻の穴、そして口、あわせて七つの穴を作ってやることにしたのだが──。
中国神話に登場する「渾沌」の伝説をもとに、夢枕獏が語るせつない物語。 その「ものいわぬもの」のイメージを松本大洋が愛しさをこめて描いた美しい絵本。
![ベストレビュー](/images/shoukai_bestreview.gif)
なにも描かれていないようにも見える表紙の、ただならぬ雰囲気に惹かれ、手に取りました。
中国の神話に登場する神または怪物「こんとん」を元にした作品とのこと。
誰でもないから、何にでもなれる「こんとん」。いつも空を見上げて笑っている。
哲学的で、読む人に捉え方を委ねてくれる作品かなと思いました。読むたびに違った印象を受けそうなおはなしです。
(クッチーナママさん 40代・ママ 女の子20歳、女の子17歳、男の子15歳)
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