![みどころ](/images/shoukai_midokoro.gif)
四つの川がひとつになって、流れ込むのはプハラの国。 川や沼と共にあるこの国の法律には、いちばんはじめにこんな条項がありました。
「火薬を使って鳥をとってはなりません、 毒もみをして魚をとってはなりません」
毒もみとは、山椒の木の皮から作った毒を川に流す漁のことで、その毒を飲んだあたりの魚が、まるごと水面に浮かんでくるのです。法律の第一条を守り、毒もみを取り締まることこそ、ここプハラの警察のいちばん大切な仕事なのでした。
そんなプハラに、あたらしい警察署長がやってきます。カワウソに似た顔のあたらしい署長さんは、とても仕事熱心! 見回りもていねいで、プハラの住人たちにも助言を欠かしませんし、なにより、毒もみを取り締まろうと自ら見張りにも立つのです。
それなのに、あたらしい署長さんがきてからというもの、なぜだか毒もみの形跡がそこここで見つかるようになり、犯人もいっこうに捕まりませんでした──
宮沢賢治の、知る人ぞ知るダークな一作! そこにイラストであらたな世界観を演出するのは、『頭山』『パクシ』などのアニメーションや、絵本『くだもの だもの』『あいうえおとaiueoがあいうえお』などで知られる、山村浩二さん。
どこかシュールで不気味な雰囲気の署長さんや、チャーミングで異国情緒あふれるプハラの町が、今まで思い描いてきた宮沢賢治の世界とは少しちがう、新鮮な色彩の見た目も楽しい一冊です。
本作で宮沢賢治の『毒もみのすきな署長さん』を知ったという方には、この物語の結末もおおきなみどころです。プハラの町をおそった毒もみ事件の真相はもとより、最後の最後に犯人の語るひと言が、あまりにも強烈!
狂気に囚われた心の闇か、あるいは、己を貫くことに迷いがない豪傑な意志か。背筋にぞわりと悪寒が走るのと同時にどこかさわやかにも感じられる、なんともいえない心持ちにさせられます。
おとなも、子どもも、心ザワザワ……宮沢賢治のあらたな一面! 読んだあとにあらためてタイトルを見てみると、そこにある「すき」という言葉が、皮肉っぽいユーモアにも、違和感のあるホラーにも、思えてくるのがまた不思議……
(堀井拓馬 小説家)
![出版社からの紹介](/images/shoukai_shuppansha.gif)
「毒もみをして魚をとってはなりません」というのが、この国の規則。規則は守るべきもので、それをやぶった者は逮捕される。犯人を見つけて逮捕するのは警察の役目と決まっている。 ところがその犯人が、なんと! ――善悪では割り切れない人間の本質にドキリとする。これは、だれの心の中にも潜んでいる「毒」なるものを、ユーモアにつつみこんで描き出した異色の傑作! 一筋縄ではいかない賢治童話の深淵が味わえる。
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