どうぶつのわかっていること・わかっていないこと(小学館集英社プロダクション)
「答えのない問いに向き合う力」をはぐくむ新感覚の絵本
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丘の向こうに建つ一軒の家。そこでは12人の子どもたちが生まれ、育ち、巣立っていった……。毎月発売される新作絵本の中から、絵本ナビが自信をもっておすすめする「NEXTプラチナブック」。今回ご紹介するのは、『のうじょうのいえ』。コールデコット賞を2度受賞した、世界が注目する作家によるこの作品、どんな内容なのでしょう。
NEXTプラチナブックとは…?
絵本ナビに寄せられたレビュー評価、レビュー数、販売実績など、独自のロジックにより算出された人気ランキングのうち、上位1000作品を「絵本ナビプラチナブック」として選出し、対象作品に「プラチナブックメダル」の目印をつけてご案内しています。
そして、毎月発売される新作絵本の中からも、注目作品を選びたい! そんな方におすすめするのが「NEXTプラチナブック」です。3か月に一度選書会議を行い、「次のプラチナブック」として編集長の磯崎が自信を持って推薦する作品を「NEXTプラチナブックメダル」の目印をつけてご案内します。
みどころ
丘の向こうの道の果て、きらめく川のほとりに建っている一軒の家。そこでは12人の子どもたちが生まれ、育った。
子どもたちは、壁に模様をつけ、居間でオルガンを弾き、いたずらをして怒られたり、自分の部屋で宇宙や星々の本に夢中になったり。思い思いに過ごします。またどんな天気の日でもお手伝いはかかさず、家族みんなで食卓を囲み、お祈りをします。やがて、子どもたちは皆大人になり、この家から巣立っていき……。
並んで写真を撮ったり、毎年背丈をはかってしるしをつけたり。みんなで壁に花や葉っぱの模様をつけたり。成長していく子どもたちを見守る小さな玄関ホール。
農場の跡地の中に、誰もいなくなって朽ちかけた家を見つけたのは、持ち主となった画家。彼女は取り壊してしまう前に、壁紙の切れはし、雨を吸いこんだ本や泥まみれのドレス、新聞やポスター、ボタン、カーテンの生地などを拾い集めます。そしてこの家で起こったことを考え、その生活をいきいきと再現していきます。そして、完成したのがこの絵本なのです!
いくつもの素材や色が層となって重なり、可憐さと重厚さをあわせ持つ独特な風合いが魅力的。作者のソフィー・ブラッコールさんは、コールデコット賞を2度受賞し、今世界から熱く注目されている絵本作家です。
読み終わった時の驚きとともにやってくるのは、絵本の中の住人たちに出会えたという喜び。家そのものはなくなっても、場所には物語がある。住んでいた人達の思いはずっと生きつづけていくという、作者のメッセージが伝わってきます。どこを切り取ってみても、そこから新たな発見があり、物語が生まれてくる。そんな風にいつまでも味わっていたくなる絵本です。
全てを読み終わったあとに
12人の子どもたちがにぎやかに暮らす、ある家の物語。密度高く描かれた豊かで幸せな風景に夢中になっていると、中盤からがらっと様子が変わっていきます。廃屋のようになった家の中には、木が生え、枯れ葉が重なり、壊れた家具や食器、洋服、新聞などが散乱している。地下にはクマさえ冬眠している。巻末におさめられているのは実際の写真と「この家のために何かをしようと、かたく心に決めた」という作者の言葉。絵本を開けば、またかつての物語がよみがえってくる。全てを読み終わったあとに、さらなる感動がやってくるのです。
磯崎 園子(いそざき そのこ)
絵本情報サイト「絵本ナビ」編集長。著書に『はじめての絵本 赤ちゃんから大人まで』(ほるぷ出版)、『ママの心に寄りそう絵本たち』(自由国民社)、監修に『父母&保育園の先生おすすめの赤ちゃん絵本200冊』『父母&保育園の先生おすすめのシリーズ絵本200冊』(玄光社)がある。