絵本紹介
2024.12.29
宇宙船に乗ってやってきたぼくら。いっしょに乗れたのは、おかあさんと大好きな犬のキングだけ。 毎月発売される新作絵本の中から、絵本ナビが自信をもっておすすめする「NEXTプラチナブック」。今回ご紹介するのは、『ぼくらにできないことはない』。リンドグレーン記念文学賞作家の初邦訳作品、いったいどんな内容なのでしょう。
NEXTプラチナブックとは…?
絵本ナビに寄せられたレビュー評価、レビュー数、販売実績など、独自のロジックにより算出された人気ランキングのうち、上位1000作品を「絵本ナビプラチナブック」として選出し、対象作品に「プラチナブックメダル」の目印をつけてご案内しています。
そして、毎月発売される新作絵本の中からも、注目作品を選びたい! そんな方におすすめするのが「NEXTプラチナブック」です。3か月に一度選書会議を行い、「次のプラチナブック」として編集長の磯崎が自信を持って推薦する作品を「NEXTプラチナブックメダル」の目印をつけてご案内します。
みどころ
宇宙船でたどり着いたぼくらがやってきたのは、ここ。乗れたのは、ぼくら二人とおかあさんと大好きなキングだけ。
知らない街での新しい暮らし。お隣さんは変わっているし、学校でもわからないことが多いし、色々言われることもあるけど。
「ぼくらはかんぺき。ぼくらにできないことなんてない」
遠いところにいるおとうさんのことを考えてしまうこともある。でも、大丈夫。いつかここに来られた時のために、ぼくらが準備してるから。
詩のような文章と、独特な色遣いの静かな絵の組み合わせ。シュールな雰囲気でありながら、どこかユーモラスで味わい深くもあり。
そんな不思議な存在感を放つこの絵本が描いているのは、主人公の男の子二人が見知らぬ土地で奮闘する様子。
少し切なくておかしな日常は、彼らの言葉の通りに受け取れば宇宙人ということになるけれど、彼らの本当のことを知る手がかりは、絵のすみずみや文章の端々にちりばめられています。
子どもたちを取り巻く状況を思うと心をしめつけられそうにもなるけれど、同時に、前だけを向き続け「できないことはない」と言い切れる子どもたちの強さに、教えられることもあるのです。
アストリッド・リンドグレーン記念文学賞受賞、スウェーデンの絵本作家エーヴァ・リンドストロムによる、子どもの視点で描かれた希望の絵本。読むたびに発見のある、忘れられない魅力のある一冊です。
前を向くから見えてくるもの
たどり着いた場所で、とりあえずお隣さんに話しかけ、犬のキングと遊び、学校では思いっきり好きな絵を描く。同時に新しい宇宙船が着陸できる準備にだって余念がない。孤独や不安をかかえながらも、自分たちを信じ行動にうつしていく。喪失、離婚、移民、難民……それぞれの可能性を想像しながらも、彼らに見えているこのちょっとおかしな景色に、希望の力を感じずにはいられません。
この書籍を作った人
絵本作家、画家。1952 年、スウェーデン中部ヴェステロース生まれ。ヴェステロース美術学校やスウェーデン国立美術工芸学校(コンストファック)で学び、コミック作家、イラストレーターとして活動。1986 年より絵本を手がけ、作品は数十冊におよぶ。2007 年から15 年にかけてスウェーデン児童書アカデミー会員。1995 年にエルサ・ベスコフ賞、2013 年にアウグスト賞、 2022 年にアストリッド・リンドグレーン記念文学賞(ALMA)受賞。
撮影:Susanne Kronholm
この書籍を作った人
1977 年生まれ。図書館勤務などをへて、翻訳家に。訳書にフリーダ・ニルソン『ゴリランとわたし』『シーリと氷の海の海賊たち』(岩波書店)、リーヴ・ストロームクヴィスト『21 世紀の恋愛いちばん赤い薔薇が咲く』『欲望の鏡つくられた「魅力」と「理想」』(花伝社)、モンス・ムーセソン『ティムアヴィーチー・オフィシャルバイオグラフィ』(青土社)など。
磯崎 園子(いそざき そのこ)
絵本情報サイト「絵本ナビ」編集長。著書に『はじめての絵本 赤ちゃんから大人まで』(ほるぷ出版)、『ママの心に寄りそう絵本たち』(自由国民社)、監修に『父母&保育園の先生おすすめの赤ちゃん絵本200冊』『父母&保育園の先生おすすめのシリーズ絵本200冊』(玄光社)がある。