●アイヌの神々(カムイ)の物語「カムイ・ユーカラ」シリーズ
─── 同じく絵本塾出版さんから発売されている「カムイ・ユーカラ」シリーズ。こちらは、アイヌ文化伝承者でいらした四宅ヤエさんの語りを藤村久和さんが文章にされたものだということ。アイヌ文化独特の語り口調や主人公がカムイ(自然神)であることなど、とても興味をひかれます。
手島さんが考えるアイヌの物語の魅力について、少しお話いただけますでしょうか。
▲「カムイ・ユーカラ」シリーズは、アイヌの先人からいい伝えられたアイヌの神々(カムイ)の物語を、素朴なことばと美しい版画で描かれた絵本です。
文字のないアイヌの人々の世界で代々語りつがれてきたユーカラ(アイヌ民族に伝わる叙事詩の総称)は、大人が子どもに伝える生きるための知恵といわれています。
動植物すべてに人格をみとめていたアイヌの人々の思いやりのある気持は、現代を生きる人々にとって多く考えさせられる物語です。
そして画家として最も感動することは、物語のなかにある北海道が開発がすすまない頃の、雄大なスケールの自然の姿です。
─── 創作された際、主人公が同じ動物でも神様ということで、表現方法として意識された部分はありますか?
主人公の動物の表現にはあまり意識することはありませんが、現代の北海道にない雄大な自然を力強く木版画で表現することに苦心します。
─── 季節ごとに訪れる自然の現象と、幻想的な世界が融合した「幻想」シリーズもすごく好きです。雪解けした山肌がちょうちょの形をしていたり、これからやってくる厳しい冬を呼び込む少女の生き生きした姿だったり、吹雪の子どもたちが登場したり・・・。自然を知っているからこそ描ける幻想世界なのかと感じております。
この様な幻想的なイメージというのは、もともと描かれたかった世界だったのでしょうか?
▲「手島圭三郎の幻想」シリーズは、広大な北の厳しく美しい幻想的な大自然の移り変わりを描いています。
私がはじめての絵本づくりをした時は、すでに47才になっていました。当然それ以前の20年以上の版画作品があります。 その作品を絵本の中に生かそうとしたのが「幻想」シリーズです。
絵を中心とした自由な展開で見る人の感性にうったえようと木版画の美しさをできるだけ出そう とした、画家としてはおもしろい仕事でした。
─── 「長い冬」というと厳しい自然のイメージが大きかったのですが、手島さんの絵本での表現の中にはそれだけではなく、冬の来る喜びのようなものも感じますね。手島さんにとって「冬」とは、どんな存在なのでしょうか?
私にとって冬は「考え、物を創る 最も良い時間です。秋の季節がおわる頃には、冬になったら行けないからとの気持でいろいろ取材などをすませます。
雪が降ると、一歩も外へ出ずに家の中で仕事をする、それは冬のよろこびであり、冬だからできる精神的な集中力だと考えています。
私が、冬を雪のあまり降らない暖かい土地で過したら、創造性が枯渇するのではないかと考えています。
これは現代の北海道人には薄れてしまった冬ごもりの準備の気持が、私の年代にはまだ残っているからだと思います。
─── 今後はどんな作品を創作されたいと思われますか?
「いきるよろこび」シリーズを、続けられるだけ続けることです。
─── 海外の方が『イソポカムイ』を読んで、年老いた自分の両親と重ね合わせてひどく感銘をうけて感動したという感想を伺ったことがあります。日本以外の海外の方からそういった反応があることをどう思われますか?
木版が新鮮に見え、日本的という評価を得ています。
これは、欧米その他の国で、木版画の絵本作家がいないからではないでしょうか。
木版画で絵本づくりをする作家は現在では稀少価値があると出版社でも見られているようです。
若い時の私の賭けが良い方に実現したと自負しています。
─── 沢山の質問にお答えいただき、ありがとうございました!
最後に絵本ナビユーザーの皆さんへのメッセージをお願いできますでしょうか。
今の子どもはTVゲーム、アニメーション等の世界にとり囲まれているのが現状です。
刺激の強いものを一方的に見せつけられていると、あまり思考が働かないのが不安です。
親の方は、絵本を子どもに読んであげてください。
親のヒザのうえで、絵本を見ていろいろ自分で考える、落ち着いた時間が大切だと思います。
絵本を子どもに読む事は子どもに親の愛情を伝える事だと思います。
▼手島さんより、直筆のメッセージもいただきました!!