海から上がってきた少女の不思議な物語
無人島で発見された少女は、一言も話せず、記憶もなかった。村で暮らすうちに少しずつ回復していくのだが……。シリー沖で豪華客船ルシタニア号が撃沈されたという史実をベースにした戦争の悲劇と感動の秘話。
本作品は、第一次世界大戦中、豪華客船ルシタニア号が撃沈されたという史実の話をベースに創作されたフィクションです。
シリー諸島の無人島で奇跡的に発見された少女ルーシー。彼女は、ひと言も話すことができなかった。献身的な家族に支えられて、少しずつ回復していくのだが、ルーシーがどこから来たのか、どうやって来たのか、何もわからない。そんな中、「ルーシーは、ドイツ人に違いない」という噂が流れる。ドイツと戦争をしているさなかのイギリスにおいて、それは、大変なことだった。それまでは、やさしく見守っていた近所の人たちが、うって変わって、ルーシーとその家族を攻撃してきたのだ。ルーシーはおびえ、家族は、孤立していく。どうしても、ルーシーの隠された真実を解明したいと願うのだが……。
戦争という悲劇を描くと同時に、記憶を失った少女の再生の物語でもあります。それぞれの人生が、絡み合って一本の糸になっていく物語は、まさにストーリーテラーの巨匠としてのモーパーゴの真骨頂です。 2014年コスタ賞児童書部門のショートリストに入っています。
1945年5月、当時 世界最大で豪華な船、ルシタニア号がアイルランド南沖でドイツの潜水艦に攻撃され沈没し1198人が死亡しました。その時、グランドピアノが海に浮かび、その上に女の子がいたことが目撃されているそうです。女の子がその後どうなったかは定かではありませんが、マイケル・モーパーゴはこの女の子に救いの手を差し伸べ、物語を紡ぎだしました。
ルシタニア号に乗る前、乗船中、沈没、救助後、医師の日記など、様々な場面が組み合わされて物語が進んでいきます。
ルーシーと呼ばれるこの女の子を助けるジム、妻のメアリー、息子のアルフィの ルーシーへの根気強く、温かいまなざしが全編を貫いています。ルーシーの過酷な運命に辛い気持ちになりますが、この家族の存在によって、常に小さな希望を感じることができました。愛情深い素晴らしい家族です。
記憶を無くし、言葉をしゃべることもできず、国籍もわからないルーシーの謎が徐々に明らかになる、たいへん読みごたえのある物語です。物語の起伏を楽しみつつ、戦争の愚かさ、それに翻弄される人々、その中でも人としての心と勇気と持ち続ける人、極限の中でも生きようとする強い意志など、様々なことが感じとれる力作でした。 (なみ@えほんさん 50代・その他の方 )
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