ある日の学校帰りに雨がふってきて、走って帰ったぼくは、ドーンというものすごい音のあと、家の屋根に何かが乗っかっているのを見る。 それは、どくろの旗がついた黒い帆船! 甲板に出てきた男は、ぎょうざ形の黒いぼうしに、フリルたっぷりのブラウス、黒い長い上着……。片目にアイパッチをしてる。 これって、海賊だよね!?
この男、「トレジャ」という名の乱暴な海賊は、「オレさまがなんぱしたのか」とか「ここはこの世の果てか!」「それならおまえ、たからもの、もってるだろ?」とか訳のわからないことをいう。 宝物? トレジャが探す宝物は、「この世の果てにあるという、青くて四角でうたうもの」らしいんだけど……?
小学校中学年くらいから楽しめる、へんてこな海賊に巻き込まれながら、ぼくが「たからさがし」をするハメになるおはなし。
乱暴で大食いで、デリカシーがなくて気が短く、しかも海賊だから人のものを奪ってもおかまいなし! そんなトレジャに辟易しながらも、一緒に「青くて四角でうたうもの」を探すぼく。 海賊がいるって、楽しそうだと思ったけど、何だか面倒くさそう……。 「どうせ出てきてくれるなら、もっと性格のいい海賊にしてほしかった」なんて、ぼくのセリフに笑っちゃいます。
この海賊トレジャは、不思議なことに、ぼくと隣の犬のチロにしか見えないみたい。 トレジャがいることで、ぼくとチロにはある変化が訪れます。
本書のみどころは、トレジャに付き合わされるぼくの奮闘ぶりと、「青くて四角でうたうもの」を探すのに協力してくれた人たちの「たからもの」が、おはなしから何となく伝わってくるところです。 読者は、一緒に「青くて四角でうたうもの」に想像をめぐらし、心の中で「ほんもののたからもの」を探す気分を味わえますよ。
(大和田佳世 絵本ナビライター)
ぼくんちに突然、海賊があらわれたんだ! しかもぼくととなりの犬チロにしか見えない。 トレジャと名のる、らんぼうな海賊だ。 「この世の果てにあるという青くて四角でうたうもの」を さがしにやってきたんだって。 ぼくもいっしょにさがすはめになった。 トレジャはらんぼうで、大食いで、 デリカシーがなくて、気がみじかくて、 しかも海賊だから、 人のものをうばってもおかまいなし!
小学4年生の主人公の家に、雨の日の落雷で海賊船が落ちてきた。乱暴でワガママな海賊トレジャは「この世の果てにある青くて四角くてうたうもの」を探すために、少年を強制的に手下にする。無茶な行動に辟易しながらも、少年は目的達成のために覚悟を決めるが…
版画作家の挿絵が印象的。文章と絵の力で、登場人物たちが実に魅力的に立ち上がる。それぞれ強烈な個性があり、アクが強く、めいめいの流儀で世界を生きている。端役でも、おのおのの人生が違う。その人たちが交流すると、別々の世界が交錯して新しい物語ができあがっていく。
どんな場面でも、人物たちの個性が失われることがないので、読者側は好き嫌いが別れると思う。少年や少女のワガママぶりと、海賊のそれとは種類もスケールも違うが、それぞれがやりたいように生きようとするとぶつかる。ぶつかりながら、妥協したり、方向転換したりしながらずんずん「宝」に向かって突き進む。物語は、人間の身勝手さと温かさ、予期していなかった素敵なものを体験できる。
異界と現実社会が交錯し、またそれぞれの人がもっている物語が交差していく。小学4年生のある一瞬を切り取った話だが、これからそれぞれの人物たちが辿っていく道を予感させて終わり、余韻や余計なお世話的な空想を楽しむこともできた。 (渡”邉恵’里’さん 30代・その他の方 )
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