人気コンビがおくる、新作クリスマス絵本
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あたらしい季節は、いつだって祝福でいっぱい! 毎月発売される新作絵本の中から、絵本ナビが自信をもっておすすめする「NEXTプラチナブック」。今回ご紹介するのは、荒井良二さんの新たな扉を開く絵本『はっぴーなっつ』です。どんな内容なのでしょう。
NEXTプラチナブックとは…?
絵本ナビに寄せられたレビュー評価、レビュー数、販売実績など、独自のロジックにより算出された人気ランキングのうち、上位1000作品を「絵本ナビプラチナブック」として選出し、対象作品に「プラチナブックメダル」の目印をつけてご案内しています。
そして、毎月発売される新作絵本の中からも、注目作品を選びたい! そんな方におすすめするのが「NEXTプラチナブック」です。3か月に一度選書会議を行い、「次のプラチナブック」として編集長の磯崎が自信を持って推薦する作品を「NEXTプラチナブックメダル」の目印をつけてご案内します。
みどころ
わたしの耳は、ときどき遠くへ旅をするんだよ。ほんとだよ。朝早くにベッドの中で耳をすませば、きこえる、きこえる。
とりの声や、やさしい風の音、明るくなる空の音に、配達の音。バスが走り出せば、ボートも動き出し、さかながピョンとはねて、ミツバチがとんで。それからそれから……わたしの目をひらかせてくれる。
「おはよう!春ですよ!」
夏がくれば、部屋の中に雲が入ってきて、そこかしこに夏のにおいをふりまくの。気がつけば、いつの間にかわたしはすっかり夏のこども。秋からは、招待状が届きますよ。嬉しくて嬉しくて。ポケットにいれて、出かけます。そして冬はとっても静か。ロウソクに火を灯すと……。
「わたし」のまわりのあちこちに隠れているのは、移り変わる季節の小さな「けはい」。それをたぐり寄せていくことが、こんなにも嬉しくて、こんなにも心を浮き立たせてくれるものだったなんて。この気持ち、なんだかずっと忘れていたみたい。
タイトルの「はっぴーなっつ」は、幸福の「ハッピー」と、作者の荒井良二さんが子どもの頃から愛読されていたスヌーピーの「ピーナッツ」とをかけ合わせた造語なのだそう。その表現も、コマ割りでユーモラスに描かれる部分と、明るい色彩で画面いっぱいに描かれた幸福感あふれる絵が交互に現れ、オマージュと個性が融合した、とても新しい表現となっているのです。
なんでもないあふりふれた日常の愛おしさ。その合間にこぼれでてくる、とりとめもないつぶやき。コマ割りの表現だからこそ、さらに細かな感情や時間の移り変わりが読者と共有できるのでしょうね。世界が揺れ動く今。絵本全体から溢れ出てくるポジティブな空気の中に、作者の変わらぬ強い意志を感じとることができます。
晴れ渡った空のような背景の色。そこに立つ黄色いワンピースを着た女の子。一度でもこの絵本を体験すれば、表紙を見ているだけで、心があっという間にどこかへ飛んでいってしまいそうな気分にさせられます。そのくらい愛らしく、幸せな1冊です。今日とは違う明日がきて、去年とは違う春がくる。そんな希望がたくさんの子どもたちに届きますように。
その喜びを知っていれば
子どもたちにまず感じてもらいたいのは、毎年「春」がやってきて、毎日「朝」がやってくる、ということ。そして、その間にはたくさんの日常があり、たくさんの楽しみがあるということ。絵本の中では存分に味わって欲しいのです。時には一日が終わらないと感じることもあるでしょうし、変わらない日々に辛くてたまらなくなることもあるかもしれません。でも、季節はめぐってくるのだと知っていれば。朝は必ずやってくるのだと知っていれば。この絵本は、「待ち焦がれる」という喜びを教えてくれます。
この書籍を作った人
1956年山形県生まれ 日本大学芸術学部芸術学科卒業。 イラストレーションでは1986年玄光社主催の第4回チョイスに入選。1990年に処女作「MELODY」を発表し、絵本を作り始める。1991年に、世界的な絵本の新人賞である「キーツ賞」に『ユックリとジョジョニ』を日本代表として出展。1997年に『うそつきのつき』で第46回小学館児童出版文化賞を受賞、1999年に『なぞなぞのたび』でボローニャ国際児童図書展特別賞を受賞、『森の絵本』で講談社出版文化賞絵本賞を受賞。90年代を代表する絵本作家といわれる。そのほか 絵本の作品に『はじまりはじまり』(ブロンズ新社)『スースーとネルネル』(偕成社)『そのつもり』(講談社)『ルフランルフラン』(プチグラパブリッシング)などがある。2005年には、スウェーデンの児童少年文学賞である「アストリッド・リンドグレーン記念文学賞」を、2006年に「スキマの国のポルタ」で文化庁メディア芸術祭アニメーション部門優秀賞を受賞。
磯崎 園子(いそざき そのこ)
絵本情報サイト「絵本ナビ」編集長として、絵本ナビコンテンツページの企画制作・インタビューなどを行っている。大手書店の絵本担当という前職の経験と、自身の子育て経験を活かし、絵本ナビのサイト内だけではなく新聞・雑誌・テレビ・インターネット等の各種メディアで「子育て」「絵本」をキーワードとした情報を発信している。著書に『ママの心に寄りそう絵本たち』(自由国民社)がある。