一輪の、のげしが咲いています。 のげしは道ゆくアリを見て、「いいなあ、せっせとあるいて、好きなところへいけるから」とうらやみます。 あるいは羽ばたく蝶を見て、「いいなあ、たのしそうに、そらをとびまわってる」とも。 そんなのげしに、おひさまが言います。 「わたしのひかりをいっしょうけんめい吸い込んでいれば、きっとどこかへいけますよ」
のげしをやわらかく照らす日差し、おおきく吹いて生き物たちをなでてゆく風− ていねいな観察によって描かれている真摯な絵からは、そんな目に見えない自然の躍動さえ雄弁に伝わってきます。 写実的な画風であるのに、そのやわらかな線と色使いのために、デフォルメされたものよりもほっこりとしていて可愛らしく感じられるのがなんとも不思議。 そのために、リアルなカエルや虫は苦手だなという人にも楽しめる作品になっています。 ページの上で生き生きと動き回る生き物たちの、匂い立つようなみずみずしい生命力に元気をもらえる一冊。 道ばたに咲く草花や虫に、あらためて目を向けたくなります。
(堀井拓馬 小説家)
「チョウやカエルのように、わたしも好きなところに行きたい」のげしは、ずっとそう願っていました。おひさまに「わたしの光をたっぷりすったら、願いはかないますよ」と言われたのげしは、毎日花びらをいっぱいにひろげておひさまの光をすいこみます。ところがある日……。春風とともに大空を飛ぶ日までを描く美しい絵本です。
道端や草むらに咲いている ひゅっと伸びた黄色い花は「のげし」という名前だと初めて知りました。そんな どこにでも咲いている、でも多くの人が気にも留めていない「のげし」が、愛情をこめて丁寧に美しく、描かれています。そして、おひさまが柔らかい光として描かれていて、春らしいほんわかとした暖かさが伝わってきました。
のげしは、動きまわれるカエルやアリや蝶々が羨ましくてたまりません。でも、いっぱいおひさまの光を吸い込んでいると・・・。
甲斐信枝さんの小さなものに心を寄せる優しさが伝わってきました。小さな子どもさんの柔らかい感受性にそっと寄り添うような絵本です。のげしが憧れるカエルが、のげしをずっと見守っているのも良い感じです。生き物同士も、心を寄せ合っているのですね。 (なみ@えほんさん 50代・その他の方 )
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