表紙には、葉を繁らせ空にそびえたつ、大きな木の写真。 ダムに沈むはずだった熊本県五木村(いつきむら)にある、鎮守の木、大銀杏です。 昔、この木の洞に入って修行したといわれる安心(あんじん)和尚の伝説と、根元によりそう村の共同墓地とともに、ひとびとの暮らしの根っこにあったふるさとの木です。 写真家の大西暢夫さんは、1996年頃からこの場所に通いつづけ、村と大銀杏と、ある老夫婦を撮り続けてきました。 本書はそのドキュメンタリー写真絵本です。
日本一の清流ともいわれ、アユが豊富に泳ぐ川辺川。 昭和30年代からダム計画がもちあがり、それから約50年、村はダム計画に翻弄されてきました。 貴重な生態系を残した一帯がダムに沈むことに根強い反対があり、ついにダム工事は中止されることになるのですが、紆余曲折あった長い年月を経て、村は高台への移転を決めます。 すべてのものは取り壊され何もなくなった村のなかで、尾方茂さん・チユキさん夫婦だけが暮らしつづけていました。
『おばあちゃんは木になった』で日本絵本賞、『ぶた にく』で産経児童出版文化賞など、写真絵本で数々の賞を受賞してきた大西暢夫さん。 あたたかで透明なまなざしは、ただそこにある人間や生き物の、結晶のような息づかいをつかみだして、わたしたちに見せてくれます。 本文のモノクロ写真は、大西さんが通い詰めたその土地の“光”にまるで祝福されているように、輝く美しさです。
かつては子どもたちの歓声がひびくにぎやかな山村だった五木村。 食べ物も着る物もすべてあり、お金はなくても暮らしていけた村。 誰もいなくなってしまった村で、茂さんとチユキさんは次に畑を耕す人のため、小石をひろいます。 その心をおしはかることは、今の子どもたちにとってかんたんなことではないかもしれません。 でも……この本を読む子どもたちが、いつか大きくなり、先人たちからそっと届けられる有形無形のいのちの記憶を、感じる日がくるかもしれません。 「ここで土になる」という言葉にこめられたものは、そのときに魂をもつのではないでしょうか。
(大和田佳世 絵本ナビライター)
村人が全員ひっこしていっても、おじいさんとおばあさんは次の世代のためにと、畑を耕し石をひろい、木を守り続ける姿を描く。
写真絵本です。
その写真は、長い年月をかけて撮影されていて
ドキュメント形式になっています。
ダムの底に沈むはずだった熊本県の村
しかし、長い年月ののち、その計画は白紙に
残ったものは、そこにとどまっていた木と老夫婦・・。
ただ淡々と時間の流れを映しているのに
ドラマチックに感じられ
まるで一本の映画を見終わったような読後感です。
写真は雄大に語っています。
なかなか言い表せないこの感じを
たくさんのひとにかみしめてほしいです。 (やこちんさん 40代・ママ 女の子11歳)
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