【あらすじ】
日曜市で応募した「お山ですごす一週間」が当たったひろし。知らないところに一人で行くのは気が進まないが、行ってみたら意外と楽しく過ごせた。一緒に暮らしたのは日曜市でお店を出していた人の家族。けんた、きなこ、お父さん達と田舎暮らしを体験した後、自宅に戻ると、ひろしは無性に田舎の家が恋しくなって…
同じアパートに住む住人が同時に体験する心温まるファンタジー。
【感想】
作者の田舎暮らしの体験がもとになっているお話(あとがきより)。
列車の窓から見る田舎の家が、誰も訪れる人もなく、ゆっくりと朽ち果てていく姿を見て、「そこを訪れる人があったら」という切ない思いから、このお話が生まれたそうです。そんな瑞々しい感性、温かな心、筆者の人柄が伝わってきて、こちらも心がほっこりしました。読み終わって、過疎化していく農村の寂しさ、山の住人の魔法が消えていく儚さなども感じましたが、全体的に「いい思い出」となって私の心に刻まれました。
なぜか、体験していないのに、懐かしい感じがします。
それは、自分が田舎出身で、地元がどんどん過疎化していくのを知っているからでしょうか。しかし、私は物語には感動しても、実際に地元を訪れる事はないでしょう。都会暮らしの方が性に合っているから、もう、田舎には戻れないのです。
…そんな風に、物語をきっかけに自分の気持ちを改めて確認できたり、何か大切なことを教えてもらえるのが、茂市さんの作品の素敵なところです。
教育的な場面や、人に命令したり強要したりしないけど、ふわっと、こころに優しい風が吹き、大事なものをそっと届けてくれる、奥ゆかしさがあります。
このお話を読んだら、なんとなく、田舎に行ってみたくなります。自分の田舎でもいいし、他の田舎でもいいし、どこか山奥に行ってみようかなぁ…