![みどころ](/images/shoukai_midokoro.gif)
みなさんは中東の「シリア」という国を知っていますか? 2012年から続く内戦で壊れた街の様子などを、もしかしたらテレビや新聞のニュースで見たことがあるかもしれません。
内戦になる前のシリアは世界の他の国と同じように、人々が穏やかに暮らす場所でした。 本書の主人公は、シリアの中でも歴史のある、アレッポという都市で、救急車の運転手をするアラー。 アラーは街を愛していました。細い路地、ピスタチオの実、ジャスミンの石鹸、スパイスを売る店が連なる商店街。店先のゆでたトウモロコシや干しいちじく。そして何よりそこに住む人々を愛していたのです。
ところが内戦が起こり、アレッポからは多くの人が逃げ出しました。 アラーは街にとどまり、救急車の運転手として傷ついた人々を運びつづけますが、あるとき自分と同じように、荒れた街で心細そうにしている猫に気がつきます。 飼われていた猫たちは、人々が逃げる中、行き場を失っていたのです。
アラーはいつ爆弾が落ちてくるかわからない街で猫たちの世話を始めます。 なけなしのお金で新鮮な肉を買い、甘える猫たちを愛情をもって撫でるアラー。 安全な場所を探して転々としながら、猫の数は増えていき……。 いつしかそのことがシリアだけでなく、世界中に広く知られるようになりました……!
「アレッポのキャットマン」として、インターネットを通じ世界で話題になった実話。 中東で暮らした経験のあるアメリカの作家アイリーン・レイサムと、シリアの首都ダマスカスで育ったカリーム・シャムシ・バシャとが出会うことにより、本作品は生まれました。 絵を描いた清水裕子さんは、絵本を手がけるのが2冊目(1冊目は2013年刊行の『Barbed Wire Baseball』。「有刺鉄線の中のベースボール」の意味)だそうですが、入手できる限りのビデオ、写真、本などを通じて「作り物ではない」アラーの住む街と猫と人々を描いたそうです。 訳者は、自身も大学生のときにアレッポの街を訪れたことのある、フォトジャーナリストの安田菜津紀さん。 言葉は発しないけれど精一杯のSOSを発する動物たち。アラーのような人がいなければ、救われることのなかったたくさんの猫たちが、絵本の中には描かれています。
本書はアメリカで最も権威ある児童書の賞、コールデコット賞のオナー賞(次点)に輝きました。 たった1人で差し伸べた手が、戦火で傷ついた街にもたらしたものを、やさしく伝えてくれる稀有な絵本です。
(大和田佳世 絵本ナビライター)
![出版社からの紹介](/images/shoukai_shuppansha.gif)
戦争が起きたシリアでは、多くの人々が街を逃れて難民になった。しかし、救急隊員のアラーは、破壊された街、アレッポに残り、取り残された猫の保護活動を始めた。そして、世界に援助を求めると、その声は広くとどき、アラーは「アレッポのキャットマン」と呼ばれるように……。この世界的に知られた実話が絵本化された。アメリカ本国でも高い評価を得て、権威ある児童書の賞、2021年のコールデコット・オナー賞を受賞。
![ベストレビュー](/images/shoukai_bestreview.gif)
アレッポがシリア最大の都市であること、そこで行われている猫の救済活動が実話であることを、この絵本で初めて知りました。
戦争で破壊された都市には、人影がなくなりました。
そんなところで、猫の救済活動かよって、正直感じたのも事実ですが、救急車の運転手であるアラーさんは大事な事を教えてくれました。
猫の命も命であること。人間だけが生きているわけではない。
猫の救済活動が、人々に喜びと希望をもたらしてくれたこと。
苦しい時こそ、失望や絶望に打ちのめされるのではなく、前向きな気持ちが大切なのです。
そしてそれは身近なところから始めればいい。
危険と隣合わせの場所で、アラーさんの祈りのような活動に感動しました。
ボランティア活動に通じるお話です。 (ヒラP21さん 60代・その他の方 )
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