池が美しい白鳥に想いを寄せた。感動の絵本。 傷ついた羽をひとりで癒す白鳥に、小さな池は想いを寄せました。白鳥が飛び立ったその時……。 詩人・内田麟太郎と画家・伊勢英子のコンビによる初めての絵本です。
いけは なみだを にじませました。 でも、いけの ながす なみだは だれにも みえません。 みずも なみだも おなじように すきとおっていましたから。――(本文より)
擬人化というのは「人でないものを人に擬して表現すること」ですが、絵本の世界でもたくさんの擬人化が試みられます。
おもちゃ、ぬいぐるみ、やさい、おうち、どうぶつたち、・・・その他たくさん。
擬人化されないものはないのではないでしょうか。
内田麟太郎さんが文を書いたこの絵本では、「いけ」が擬人化されています。
いけ? ひらがなで書くとわかりにくいですが、これは「池」。
水をたたえた、あの池です。
春になって仲間の白鳥たちが遠い北国に帰っていきます。でも、たった一羽だけ帰れない白鳥がいました。
きつねに羽をかまれて傷ついた白鳥です。
白鳥は小さな池で傷を癒していたのです。
ただ、池は言葉が離せません。
内田さんは、それは池がちいさいからだとしています。
なので、絵本の中では池の言葉はかっこつきで書かれています。
(…はくちょうさん)と、いった風に。
でも、池の白鳥への想いは、まるで恋する若者のような感じがします。
白鳥の白いうなじをみつづけているなんて、まるで恋をしているよう。
やがて、白鳥の傷が癒え、帰る日がやってきます。
真っ青な空に一羽の真っ白な白鳥。
そのあとを追うように、池もまた白鳥となって羽をひろげます。
なんとも感動的なラストです。
内田さんの素敵な文を、そして池の擬人化という難しい設定に、いせひでこさんの絵は見事に応えています。
最後の二羽の白鳥こそ、内田麟太郎さんといせひでこさんの姿のようにも思えました。 (夏の雨さん 60代・パパ )
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