きれいなぴんく色の壁に、すてきな窓と玄関。小さいけれど、丈夫でしっかりしたつくりの「ちいさいおうち」がたっているのは、静かな田舎の丘の上。
朝になるとお日さまがのぼり、夕方にはお日さまがしずみ。 夜になれば、お月さまをながめ、遠くに見える町のあかりを見ながら想像をする。 春になれば、りんごの花が一斉に咲き、夏になると丘はひなぎくの花で真っ白になり。 秋には、木の葉が黄色や赤に染まり、冬がくると、辺りは一面の雪景色。
この、夢のように美しく変貌する自然の景色の中心にいる「ちいさいおうち」。 住んでいる人たちは畑仕事をし、子どもたちは池で泳ぎ、熟したりんごをつみ。 それらを、動かずにじっと見ています。
この幸せな光景がずっと続くと思っていたのに、ある日変化の時が訪れます。家の前にやってきたのは自動車。自動車はどんどん増え、やがてスチームシャベルが丘を切り崩し、道をつくり始めたのです! 「ちいさいおうち」の前に広い道路が出来上がると、あっという間に景色は変わっていきます。背の高いビルがたち、夜には外灯がつき、電車が通り、高架線が通り……。
そこにあるのは「時の流れ」。なにも変わらずにそこにいるだけなのに、どんどんみすぼらしくなっていく「ちいさいおうち」を見ながら、小さな読者は何を思うのでしょう。きっと同じようにしょんぼりし、ひなぎくの花が咲く丘を恋しく思うのではないでしょうか。
70年以上も前に誕生したこの『ちいさいおうち』は、アメリカを代表する絵本作家の一人、バージニア・リー・バートンの傑作絵本です。 細部に渡って考え抜かれた構図、デザイン、そして美しい色彩。多くは語らずとも、その思いがシンプルに伝わってくる文章。現在に至るまで、多くの表現者たちが影響を受けた1冊としてこの作品をとりあげるのも納得の完成度なのです。
2019年11月に、バートン生誕110年を記念して、より原作に使い色彩で美しく生まれ変わった改版が発売となりました。表紙の“HER-STORY”の文字、献辞の“To Dorgie”の文字がよみがり、巻末には、バートンの息子さんによるあとがきが収録され、よりこの作品を深く味わうことができます。かつて子どもの頃に読んできた大人の方も、もう一度読み直してみることをおすすめします。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
しずかないなかに,ちいさいおうちがたっていました.やがてどうろができ,高いビルがたち,まわりがにぎやかな町になるにつれて,ちいさいおうちは,ひなぎくの花がさく丘をなつかしく思うのでした――.時の流れとともに移りゆく風景を,詩情ゆたかな文章と美しい絵でみごとに描きだした,バートンの傑作絵本.
(2019.11改版)
私も娘も共に大好きな絵本。絵を見ているだけで、本当にゆったりとした温かい気持ちになれます。
気に入った本に出会うと、必ず1ページずつ絵を真似て、自分の絵本をつくる娘ですが、この本を読み終えた瞬間にも、「描いてみたい!」と、目を輝かせていました。
でも、表紙の絵を見ながら、「この人(バートン)のデザイン、ちょっとおかしいよね。だって、自然の木は、こんなふうにりんごが生らないもん!」なんて、アメリカを代表する絵本作家のバートンに向かって、少々の苦言も!!
りんご並木のすぐそばで生まれ、物心ついた頃からりんごの木に登って育った娘ならではの感性かもしれません。
だからこそ、ちいさいおうちの自然や田舎を思う心もよく理解できるのかな、と思います。バートンは、他の絵本の中でも、現代社会への警鐘を鳴らすシーンを多く取り入れていますが、ちいさいおうちの周りにも高層ビルが立ち並び、「もう いつはるがきて、なつがきたのか、いつがあきで、いつがふゆなのか わからない」都会へと変わってしまった寂しさを、娘もちいさいおうちの気持ちになって、感じていたようでした。
そして、ちいさいおうちがお引越しをして、再び、昔のようなしあわせな日々が戻ってきたとき、
「あっ、子どももいるよ。犬や猫も!」と、ちいさいおうちにも命が注がれたことを、心の底から喜んでいました。
「お日さまを みることができ、お月さまや ほしも みられます。そして、また、はるや なつや あきや ふゆが、じゅんに めぐってくるのを、ながめることもできるのです。」
そのことが、どんなにしあわせなことか・・・今まで深く考えたこともありませんでしたが、部屋の中や庭に陽射しが差し込み、夜は静かに星を見ながら眠り、季節の移り変わりを肌や目で感じることができるのは、とても、とても贅沢で、有り難いことなのですよね。 (ガーリャさん 40代・ママ 女の子6歳)
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