どうだ、ジョーゼフ、わしの手は。まだまだ達者なわしの手で、おまえにも教えてやろう、ピアノやトランプ、野球を。そして、昔、わしができなかったことを……。手を通して描かれた、伝える祖父と受け継ぐ孫の物語。
アメリカの人種差別を題材にした2010年のアメリカの作品。
人種差別を題材にした作品というと、「ローザ」「むこうがわのあのこ」「キング牧師の力づよいことば」等のコールデコット賞を受賞した作品が思い浮かびます。
ただ、これらはどれも骨太の作品で、理解するのにある程度の年齢に達していることが条件です。
それに比するとこの作品は、題材が身近なだけに、人種差別を考える作品の入門編と言えると思います。
物語は、おじいちゃんが孫のジョ−ゼフに、靴紐の結び方、ピアノの弾き方、トランプの切り方、ボールの打ち方なんかを教えるシーンで始まります。
共通しているのは、「手」
そして、おじいちゃんは、昔、パン工場で働いていた時、黒人ということでパン生地に触ることを許されなかった時代のことを話し始めます。
1950年代から1960年代の初めまで、アメリカの大手パンメーカー3社、ワンダー・ブレッド、テイスティー・ブレッド、オーリーの工場では、アフリカ系アメリカ人に対する明らかな差別があったとのこと。
彼らは、床の清掃、トラックへの荷の積み下ろし、機械の修理などの仕事は出来ましたが、パン生地を扱うことは許されなかったのです。
そして、黒人達が立ち上がった様が描かれて、今があるとしています。
最後は、ジョーゼフの目線で語られますが、やはり共通しているのは、「手」
今回の題材は、人種差別の些細な出来事でしかないかも知れませんが、こうした歴史は、やはり記録として伝承すべきことだと思います。
そうした観点からすると貴重な作品であって、しかも、その題材が身近なだけに衝撃的な事実として受け止めることのできるものです。
「手」に焦点を当てたストーリーも良いし、おじいちゃんの目線から孫の目線に自然に移行する展開は、実に分かり易いもの。
また、油絵の絵具で描いた絵を練り消しゴムで消すという独特の技法の絵は、優しいタッチで、読み手の心を揺さぶってくることでしょう。
小学校低学年のオススメの絵本です。 (ジュンイチさん 40代・パパ 男の子12歳、男の子6歳)
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