この絵本で向き合っているのは「やさしさ」について。 主人公の少女クローイの心の動きを繊細に追いかけながら、誰もが記憶の奥底に持っているちょっとした苦み、痛みを伴う体験を呼び起こされます。 その上でささやかれるアルバート先生の言葉は、クローイだけでなく読者の心の中へも問いかけてきます。 「みずに おとされた ちいさな いし、ひろがる さざなみ・・・やさしさも、これとおなじなのです」
雪が降り積もり、白く輝いてた冬のある朝。クローイのクラスにやってきたのは一人の女の子。 「転校生のマヤですよ。」校長先生が紹介します。 隣の席に座ったマヤにわらいかけられると、クローイは顔を窓の外に向けます。 マヤの格好はみずぼらしく、お弁当もなんだかへん。時々一緒に遊ぼうと変わったおもちゃや古い人形を持ってくる。 クローイはマヤを受け入れることができず、無視をしたり、からかったり。 でも、ある日マヤの席がからっぽに・・・。
美しい風景、小学校の教室や校庭、それぞれ個性豊かな子どもたち。そして多感で揺れ動く少女たちの表情。丁寧に、そして繊細に描き出されたそれらの絵を見ているだけでも、そのとまどいや後悔の心が伝わってきて胸にせまります。
本当に大切なことはなにか。この世界をちょっとずつ良くしていくものは何なのか。 クローイが「やさしさ」をマヤにとどける機会は訪れるのか。 考え込むクローイのその顔に、わたしたちは希望をたくさずにはいられません。 等身大で成長している子どもたちにこそ、今読んでもらいたい1冊です。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
ある朝、クローイのクラスに、校長先生がはいってきた。つれていたのは、ひとりの女の子。「転校生のマヤですよ」。マヤのかっこうはみすぼらしい。お弁当のなかみもへんだ。クローイたちは、そんなマヤをわらいあい……。新しい友だちとの出会い、無視しつづけた日々、とまどい、後悔、そして……。多感な少女の心のうごきを丁寧にすくいとり、大切なテーマを読者ひとりひとりの心に問いかけます。美しい絵も心にせまる一冊。
私がカウンセリングを勉強している先生が、道元の愛語という言葉について、優しさは心の底に眠っているので、それをかきおこさなくてはいけないということを言われることがあります。
読みながらふとその愛語のことを思い出しました。このお話の先生が言われる言葉の中に「ひとりひとりの やさしさが このせかいを ちょっとずつ よくして いくのですよ」という言葉があります。
人の心を動かしていくのが優しさであり、その根底にあるのは愛。
マヤに優しくできない「あたし」の中にも優しさは眠っているはず。でも周りを気にしたり、明日こそはと思っていたりしているうちにどんどん時間は経過していくのかもしれません。
優しくしたいのに優しくできない、笑顔で笑いかけるだけでもいいのにそれすらもできない。簡単なようだけれどもできなくて後悔だけが残ったというそんな経験、子どもの頃にはあったかもと。
「あたし」がこの経験を通して変わるきっかけになってくれたらいいなあと思いました。
ジャクリーン・ウッドソン、何気ない子どもの日常の中に潜むほろ苦い経験を描くのがうまい作家だと思います。
『百枚のドレス』にも通じる世界があるように思いました。 (はなびやさん 40代・ママ 男の子11歳)
|