【あらすじ】
吃音の男子中学生が、入学してから弁論大会に出るまでの物語。
小学校では一人も友達ができなかった少年は、吃音という症状を抱えていた。言葉がでなかったり、つっかえたりして、滑らかに話せない。絶望的な気持ちでいる少年は、ふと放送部に興味をもった。そして放送部を訪れて…
周囲の人の温かい気持ちに支えられ、少しずつ前進していく中学生の物語。
【感想】
作者自身が吃音を経験しているためか、吃音で悩む少年の気持ちや、状況が非常に生々しく伝わってくる。入学してすぐ、クラスのみんなに自己紹介をする場面では、結局、人前で話すことができず、仮病を使って逃げてしまう少年。その場面が、まるで読者の自分が少年になったかのような臨場感があり、心がいたく、吃音者の苦しみが感じられて、泣けてきた。
これは、物語だけども、吃音という困難を体験した気がした。少年が「まともに自分の名前すらいえない人を雇う会社はない」と、自分の将来に絶望する場面などは、本当に苦しくて、読み進めるのがつらかった。もし自分がそうだったら、将来を悲観してぐれたり、引きこもったりするだろう。少年が言葉につまり、つっかえながら、自分の言いたい事を一生懸命に話すシーンが、ひとつひとう丁寧に描かれていて、私は読みながら、少年がさいごまで話し終えるのを、ずっと真剣に待っていた。少年がバカにされて逃げ出すシーンでは、バカにしたやつらをぶん殴ってボコボコにしたい衝動にかられた。読者という一歩引いた立場ではなく、思わず感情移入して、いろんな場面で登場人物と一心同体になって、「経験」してしまった。
吃音は障害と認められてもいいのではないか。物語が終わった後、吃音の他にもたくさんある障害に思いを馳せた。
だれもが安心して勉強し、働き、暮らしていける社会が必要だ。