地味ですがなつかしく穏やかな風景の、雨の日が舞台。
重厚な色彩で、写実的に描かれた美しい絵からは
ふりしきる雨音や、ヨンイの心臓の鼓動の音までも
聞こえてくるようです。
また、少し離れたところからヨンイの背中を見つめる構成の挿絵は、
古い映画のフィルムを見ているようにも思えますね。
重く鈍い雨の日の色彩の中に、ほのかに透けながらうす明るい色を差す
ヨンイのビニール傘は、ヨンイの表情を巧みに隠しているのに、
いつのまにか読み手である私たちの心の中に、
ヨンイのまなざしが浮かび上がるようで不思議な感覚を感じました。
緑色の影だけが雨の地表に鏡のように残像を結ぶ美しい場面では、
ヨンイに野心の中を感じながら、いつの間にか自分がヨンイになって
目の前の光景を見つめているような錯覚すら覚えてしまう程
不思議な絵本でした。