日常の言い回しに「真っ赤になって怒る」とか「無垢な白」とか「顔色を失う」とか、色にまつわる表現はたくさんあるけれど、はて、それはどういった状態を指すのか具体的に説明しろ、と言われると困ってしまう。
宮沢賢治の紡ぐこの物語は、ストーリーそのものは大人にとっても難解で、活字を追うだけでは内容がストンと腹に落ちてこない。
けれど、絵の力が加わるとどうだろう。白い象には柔らかな清らかさを、鼻の穴から黒々とした毛を生やすオツベルには強欲を、赤く群れなす象に怒りを、感じる。
色の持つ温度や線の強弱が、文字で読み解くよりも直球に、肌感覚にゾワゾワと話の内容を伝えてくれる。
まさに、絵本だからこその、名作の楽しみ方が、この一冊にはある。
子どもたちがやがて大人になったとき、自分の力ではどうにもならない事態に出会うこともあるでしょう。そんな時、あの白い象のようにあ「苦しいです。サンタマリア。」とため息をつくかもしれない。けれど、白象に童子が手を差し伸べ、仲間が助けに訪れたように、どんな理不尽な状況にも、救いがきっと訪れるはず。そんな小さな希望という財産が、鮮やかな色彩の記憶とともに、子どもの心の根っこに残っていてくれれば良いと思います。