窓辺に花が咲き、お父さんは弟に子守唄をうたい。お母さんは私の鼻にキスをして、学校まで送ってくれ。火山のことを勉強した後に、鳥の絵を描いた。そして、ランチタイムのすぐあとに……
せんそうがやってきた。
せんそうは校庭の向こうからやってきて、全てを吹き飛ばし、私の家があった場所を黒い穴にし、誰もかも連れていってしまった。
小さな女の子に襲いかかった恐ろしい出来事は、そこで終わってはくれません。せんそうは、どこまで逃げても追いかけてくるのです。遠く遠くまでやってきて、やっと見つけた家の門は閉じ、学校に入ろうとするとこう言われるのです。
「あなたの場所はありません」
2016年春、イギリスで、3000人の孤児の難民の受け入れが拒否され、同じ頃、座るイスがないという理由で難民の女の子が学校への入学を断られました。そのことを聞いて作者が書いた詩が、この絵本の元になっているのだそう。イスは、全てを失い行き場のなくなった子ども達との連携のシンボルとなったのです。
世界には2,250万人という数の難民がいます。そして、その人たちが誰一人として望んで難民になっているわけではないのです。どんな子どもたちにも未来を夢見る権利があります。安全な場所にいる私たちにできる支援はあるのでしょうか。
だけど、当たり前だと思っていた日常がある日突然壊される、この悲しみと恐ろしさは絵本を通して痛いほど伝わってきます。ひとりぼっちになってしまった女の子の絶望感に打ちのめされます。今自分が何を感じ、どんなことを考えたのか。絵本を読んだ後にその感情をしっかり受け止める。子どもたちには、そんな力がきっとあるのだと思います。
世界がどこへ向かっていくのか、しっかりと見極めていかなければならない今。大事なヒントとなる1冊なのかもしれません。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
戦争がやってきた日、窓辺には花が咲き、お父さんは弟に子もり歌をうたっていた。午前中の授業で、火山のことを勉強した。おたまじゃくしの歌をうたった。鳥の絵をかいた。そして、ランチタイムのすぐあとに戦争がやってきた。 日常に突如襲いかかり、すべてを破壊し、心の中にまで入り込んでどこまでもつきまとう戦争。その戦争を振り払ってくれたのは、子どもたちの優しさに根ざした行動でした。 2016年春、イギリスで、3000人の孤児の難民の受け入れが拒否され、同じ頃、座るイスがないという理由で難民の女の子が学校への入学を断られました。そのことを聞いて作者が書いた詩が、この絵本の元になっています。この詩がウェブに掲載されると、#3000chairsというハッシュタグをつけた椅子の様々な絵が、世界中からツイッターに投稿されました。椅子は、教育を受ける機会のない子どもたちとの連帯のシンボルになったのです。
ソファに絵本を置いておいたら、小2の息子が「あ、ちょっと読んでみようかな」と興味を示したので、「お母さん読んであげよっか」というと、「いや、自分で読む」と黙々と読み始めました。いつもは面白おかしい本が好きな私と息子ですが、この本は気になって手に取ってしまいました。
読み終えた息子に感想を求めると、いやだなぁ、、、戦争は死んでしまったり独りぼっちになってしまうからこわい。と、純粋に戦争を怖がる感想でした。それだけじゃないよ、国が滅びて何もなくなってしまったあとも、戦争の影響は続くのよ、と、再度本を一緒にめくりました。
初めて「難民」という言葉を知った息子と一緒に、地球儀を回しながら、シリアという国がどこにあるか探しました。そして歴史的にどんな場所であるかを話して聞かせました。まだ幼い息子には難しかったかもしれませんが、何か一生懸命考えているようでした。当たり前のようにお友達と遊んだり勉強をしたりすることができなくなる。居場所がなくなる。そんなことがずっと続いたら、それはどれほどの苦痛だろうか、きっと私たちの想像をずっと超えるものなんだろうと思いました。
息子にTwitterで拡散された”#3000Chairs”の話を聞かせると、「受け入れないなんてイギリスはひどいよ」と憤慨していましたが、ドイツやカナダなどの難民受入数と比較した「日本が受け入れた難民の数」を教えると、「え、うそだ、ひどい。どうしてそんなに少ないの?」と、かなりのショックを受けていました。どうしてたくさん受け入れてあげられないのだと思う?と問いかけてみると、子供なりに「遠いから?」「言葉がちがうから?」など、色々と考えを深めているようでした。答えは出ませんでしたが、日本は地続きでほかの国とつながっていないこと、違う考えや文化を持った人と暮らす経験があまりないこと、でも、みんな同じじゃない人たちが地球上にいて、皆がハッピーに暮らせるという世界に子どもたちがいて欲しいことなど、私も久しぶりに頭を使って、息子に一生懸命私の考えを伝えました。
けんかは無くならないし、無くさなくていいと思う。でも、戦争は無くさなくちゃダメだと思う。という息子なりの意見が聞けて、成長を感じました。こういう素晴らしい絵本があると、それを起点に子どもと真面目に語り、考えを深めることができますね。 (カオリンゴカモシレナイさん 40代・ママ 男の子8歳、男の子2歳)
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