荒れ果てた野原にぽつんとそびえる、岩だらけの山。 降りつける雨や雪の冷たさしか知らなかった山に、ある日一羽の小鳥がやってきました。 山は小鳥のやさしく柔らかな感じにわくわくして、名前を尋ねます。 ジョイという名のその小鳥は、毎年春になると巣作りの場所を探して旅に出るのだといいます。 山は小鳥に、ここにいてくれと頼みますが、食べ物や水のない場所には住めない、と断られまする。 それなら必ずまた来て欲しいと頼みますが、小鳥の命は数年しかありません。 しょんぼりする山に小鳥は、自分の娘にも、その娘にもジョイの名をつけて、春になったら山へ来て歌うように引き継いでいくことを約束しました。 それから毎年ジョイという名の小鳥がやってきましたが、そのたびに別れが辛くなっていきます。 ジョイを待つ狂おしさに、山は砕け、涙を流します。 涙で出来た小川に、ジョイは毎年タネをくわえてやってくるようになりました。 山には草や木が茂るようになり、山の悲しみの涙は、幸せの涙に変わっていったのです。 そして・・・。
気が遠くなるような時間をかけた、壮大なラブストーリー。 永遠に近い命を持つ山と、ほんの数年の命しかない小鳥。 ジョイという名を受け継ぐことによって、山と小鳥の物語が続いて行きます。 そして強い想いと長い年月が、山を変えていくのです。 マクレーランの美しい物語に、エリック・カールのコラージュが華を添えています。 小鳥の淡々とした表情に、時の長さを感じることができます。
マクレーランはこの本について、 「永い年月がもたらす変化のすごさとか、ひとつの命に託された何かが時間をこえてうけつがれていくすばらしさに魅せられて、一人類学者としての夢を描いてみました。この本の中のジョイのように、この絵本も親から子へまたその子どもへと、いつまでも親しまれていくことを願っています」と述べています。
大人も心を震わす、感動の絵本です。
(金柿秀幸 絵本ナビ事務局長)
渡り鳥のジョイと岩山のあいだに生まれた友情は、やがて山を緑の楽園に変えた?。文化人類学者の命の讃歌。
冒頭の岩山は生命の温かさにふれたことのない、さびしい山でした。「山」をそんなふうに擬人化して捉えたのは、私にとって新鮮でした。「山」の描写は、気の遠くなるような長い間、じっとだまってそこにたたずんでいたことを感じさせます。そこへやってきた小鳥と山とのやりとりには、せいぜい3年ほどしか生きられない小鳥のはかなさ、じっと待つことしかできない山のさびしさを感じますが、小鳥も、そして山も、自分の命とはそういうものなんだ、と受け入れる潔さを持っているように感じます。そしてまた続く長い長い年月の中で、小鳥や木々が、それぞれの命の限りに、生きながら、次の世代にバトンタッチしていく、という謙虚さが淡々と描かれ、胸をうたれました。
読み終えた時に、長い地球の歴史のごく一部に自分が生かされているということを感じた、大変深みのある絵本でした。 (JOYさん 30代・ママ 女の子8歳、女の子6歳、男の子3歳)
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