絵本を開くと、何でもない自然の景色がそこにあって。 でも、何でもないはずの雨や風、嵐の後に現れる、大きく広がった空を眺めているうちに、自分の心の中で込み上げてくるものを感じて・・・思わずつぶやいてしまうのです。 「ああ、明るい空だ。」 何度開いても、絵本の中の一日を同じ気持ちで味わうことができる、こんな体験のできる絵本には、そう出会うことはできないのではと思うのです。そして、その後に登場する、水晶の様なしずくや宝箱の様な夜空をじっくり眺めながら余韻にひたりつつ、幸せな時間をかみしめます。 「だん だだん だんだん 雨はつよくなり・・・」 長田さんの詩にひきこまれるのか、荒井さんの絵の迫力にのみこまれているのか。 理由を分析する必要はないけれど、私にとって、「絵本」が存在する事の意味を感じられる、とても大切な一冊になりそうです。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
詩人・長田弘さんが生み出したリズムのある美しいことばの粒。 絵本作家の荒井良二さんがなんどもかみしめ、味わって、 時の流れと自然が語る姿を一枚、一枚の絵に切り取っています。 雨の音、 風の音、 光の動き、 長田さんと荒井さんが捉えた世界が、 一冊の絵本として見事に結実した珠玉の作品です。 凄みさえ感じる荒井さんの絵、ぜひご注目ください。
・作/長田弘さんからのメッセージ
空を見上げたくなる絵本 長田 弘 朝が明けて、午前がきて、正午になって、昼下がりになり、夕方がやってきて、日が暮れてきて、夜がきて、真夜中になって、一日が過ぎる。それは平凡で退屈な一日なんかじゃなくて、ほんとうは、とんでもなく大切な一日であり、ありふれた奇跡、なんでもないミラクルといっていい、かけがえのない一日なんだということを、いまさらながらはっきりと思い知らされたのは、今年3月、東北太平洋沿岸を襲った激越な大震災と、それからの日々でした。 ぽつん。一滴、雨つぶが落ちてきてはじまるこの絵本を、そんなありふれた奇跡、なんでもないミラクルを伝える、かけがえのない一日の絵本として、みんなに手渡すことができればうれしいです。荒井さんは山形、わたしは福島。東北の風景、東北の自然に育てられた少年時代を過ごしたそれぞれの思いが、ページをめくる指先からみんなの胸にまでひろがっていって、読み終えたら空を見上げたくなる、『空の絵本』がそのような絵本であれば。
・絵/荒井良二さんからのメッセージ
長田弘さんと絵本を作るときは、独特な緊張感と言葉からも解き放たれるような高揚感の中で絵を描き進めます。木は木になるように念じ、そして森になるようにと。空は空になるように念じ、そして空気になるようにと。長田さんの書かれた言葉たちがぼくが描いた絵の大気の中に溶け込んで音になり、読み手に伝わるようにと願いつつ、その音を頼りに筆を運んでいきます。この本が、東日本大震災、そして、原発の人災が起こった2011年という年に出版されたことに大きな意義を感じながら、一本の木のように息の長い絵本になってくれることを信じています。
一日を通して徐々に移り変わる空の表情を、美しく鮮やかに描いた作品。
夜が明けて陽が昇り、やがて夕暮れを迎え夜が来る。
その時間の流れは決して変わることのない普遍的なものだけれども、一日として同じ空はない。
この作品を読むと、普段から当たり前のことのように感じている自然の変化や、目の前に広がる風景は、決して当たり前などではなく、どれもかけがえのない奇跡的なものなのだということに、改めて気付かされます。
空の一日は何ておおらかでゆったりとしているんだろう。
元来スローペースな性格、育児と主婦業、自己実現の両立は思いの外難しく、上手くいかないことも多々あるのですが、この絵本の「だんだんと」のリズムには、とても励まされる思いです。
疲れた時には、娘と一緒に空を眺め、ゆっくりとした時間の流れに身を任せてみるのもいいなぁ。
読むたびに、心に栄養を与えてくれる一冊です。 (まどかめさん 30代・ママ 女の子2歳)
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